第161話 彼シャツ
「ハロー、ワンダーボーイ」
翌日、ラテン系女性のCIA、ジェシカさんが遊びに来た。
どうやらマナミさんとの同盟関係が成立したと判断して、隠れてこそこそするよりは堂々と遊びに来た方が心証が良い、という判断らしい。
「あと、男が見たくて」
「ようこそ、ジェシカさん」
諜報活動って男性とお知り合いになれないんですね。わかります。
揃いも揃ってハニートラップに弱そうな人たちが来てるんだけど、大丈夫か異世界諜報機関。
ほのかさんとあきらさんは仕事中なので、マナミさんが出迎えた。
「で、ヌードになれば良いんだな?」
そう言ってタンクトップを脱いで褐色のバストを揺らすジェシカさん。
ケイトさん、昨日のことをどう説明したんです?
「ヘイ、ワンダーボーイ。これで良いか?」
ホットパンツの上に、健康的な褐色肌を見せつけるジェシカさん。
あと、わき毛はもっさりしていた。ケイトさんは処理してたんだけど。
この世界に来て、初めて女性のわき毛を見たかもしれない。
ぼくが視線を向けると、ジェシカさんは少し恥ずかしそうに両脇を隠した。
「軍じゃ誰も気にしなかったんだ。まさか、こんな逆ハニートラップを仕掛けるなんて夢にも思わなかったんだから、処理なんてしてないよ」
「充分です、ジェシカ」
グッ、とサムズアップするケイトさん。
ぼくの趣味はなんだと思われてるんだろう。
喜ぶけど。
「ケイトさん。そちらの報告は、どうなっているんだ?」
「『超人薬』については国に報告しました。何としても協力を取り付けてサンプルを手に入れろ、とのことです。――ユズヤの能力については報告していません。実際に確認していないことを危惧しても、互いのためになりません」
つまり、ぼくの報告は所持してる『アイテム』までか。
ケイトさんとしては、欲しいのはそっちなんだし、緊急性のある目的として報告するのは当たり前だろうね。
「まぁ、その辺が落とし所だろうな。こっちのブラフということもあり得るわけだし。ただ、こちらが所持している超人薬『バイタライザー』は本物だよ。譲る気もある」
その返答に、ジェシカさんが不思議そうな顔をした。
「サー・マナミ。日本じゃ研究してないのかい?」
「そのうち、『リザレクトポーション』を研究してる薬学班に回すつもりだ。今は新治療法とポーションの研究に手一杯でな」
なにせ、世界各国の対応に追われてるからね。
首相も外務大臣もテレビで見ない日はないし、何なら当の大統領が訪日会談を検討しているニュースまで見た。
「まぁ、そうでしょうね。……新治療法の発想がどこから来たのか、と思いましたが。ユズヤのアイテムかスキルを解析したのですね」
「偶然できた試薬、なんて大ウソなんだな。そのうち、うちのプレジデントが日米共同研究しよう、って言い出すんじゃねぇのか」
それはあると思う。
というか、マナミさんの予想する着地点はそこだろう。
手札はまだまだあるんだし、薬品類の共同研究なら、追加の資金や人手は欲しいはずだ。
たぶん、現在の状況も、国家公安委員会は把握していて、黙認してるんだと思う。
マナミさんが、随時報告してないはずがないからね。
報告した上で、事態が好転しそうだからマナミさんに預けられてるんだと思う。
「我が国も児童への『男性化』治療を開始して、そんなに余裕があるわけじゃないからな。共同研究に対してはたぶん、前向きな返答が出ると思う」
「出たよ、日本人特有の濁した言い方。そこははっきり『イエス』って言えないのかね」
ジェシカさんが、んべっと舌を出して両手を挙げる。
前向きに検討します、は定型の政治家仕草だからね。
ただ、今回は本当に前向きな結果になりそうだ。
「そこは支援するでしょう……と言いたいところですけど、我が国も人口が多い分、新治療法の大規模試行には莫大な予算がかかります。ちょっと予想しきれませんね」
ケイトさんにも見当は付かないそうだ。
CIAはアメリカの情報部門を握ってるけど、政治的意志決定には関与しないことも多いそうだ。
むしろ、報告した情報を無視して政治決定をされたケースも割とあるらしい。
「まぁ、我々は諜報員ではあっても政治家ではないので。その辺りはプレジデントや議員が決めることです。ただ、どこの国も予算問題に関しては同じでしょう」
「どこの国も、経済破綻寸前だったらしいですね」
ぼくの質問に、ケイトさんが「ええ」と返した。
欧米アジア中東他問わず、どこもひっ迫していたらしい。
それだけの、今回の新治療法にすべての国が注目したようだ。
世界的疫病の解決策だからなぁ。
「良いじゃないか。今までD・Cとニューヨークにしか『男』はいなかったんだ。これで男が増えれば、精子バンクと人工授精の費用がかなり浮く。私らも結婚相手ができて万々歳、ってわけだ。なぁ、ボス?」
「そうですね。ジェシカの言うとおり、男性の数が増えるのは喜ばしいことです。まして、我々局員は業務の性質上、既婚者がいませんでしたから」
切ない事実をケイトさんがさらっと白状した。
特殊任務に就く命が軽い諜報員とは言え、既婚者がいないと言うのは行きすぎてる。
それだけ、人口の多いアメリカでも『確定男性』の男性人口集中が大きかったんだろう。
「じゃあ、ケイトさんやジェシカさんも男性経験がないのか」
「ええ。我々は任務上の都合で女性経験はあるのですが。男性経験は、ないですね」
その悲しそうな表情に、マナミさんも沈痛な面持ちをする。
身につまされるところがあったんだろう。
「同性のマダムのケツを舐めるくらいなら、ワンダーボーイに夜のお相手をして欲しいね。中身は成人してるんだろ?」
「ええ。マナミさんたちとはもう経験済みです」
ぼくが答えるとマナミさんは恥ずかしがり、ジェシカさんはヒュウ、と口笛を鳴らした。
ケイトさんが恥ずかしがってるのはなぜだろう?
と思ったけど、すぐに思い当たった。
「ケイトさん、ジェシカさん……壁越しに、昨夜の様子を盗聴してましたね?」
「ええ……まぁ。その。すみません」
ケイトさんが真っ赤になった顔を伏せる。
ジェシカさんがからかうように笑いながら言った。
「ボスは昨日、ワンダーボーイに触られてるから。激しかったぜ? 寂しい女同士だから、二人でそれぞれ燃え上がっちまったよ」
「ジェシカ! 失礼ですよ!」
ケイトさんがたしなめる。
だいぶ激しかったんだろうな。
ふと、ぼくにもいたずら心が沸いた。
「じゃあ、助けになるかはわかりませんけど」
シャツをゆっくりと脱いで、ズボンも下げる。
ジェシカさんとケイトさんは、息を呑んでその様子をガン見していた。
「直接見せるのも何なので、ジェシカさんの脱いだタンクトップをお借りしますね」
ぶかぶかの、サイズの合っていないタンクトップを着させてもらう。
その様子に、持ち主のジェシカさんは鼻と股間を手で押さえて、目を血走らせた。
「ノー……プリティデビル……!」
「ユズヤ。ジェシカにそのイタズラは、シャレになりません。襲われます」
ケイトさんも気が気でないようだ。
胸の下まで下がったタンクトップの襟元から覗くぼくの肌から、目が離せない。
ぼくは、二人を見上げて、尋ねてみた。
「…………ダメですか?」
「結婚しよう、ワンダーボーイ。私を身ごもらせろ」
ジェシカさんはぼくの手を握って、熱くプロポーズしていた。
ホットパンツは色が変わるくらいに湿っている。
その様子を見て、マナミさんは頭を抱えていた。
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