第5話 天童美継
とりあえず僕と山君は廊下に散らばったプリントを拾う。
"メスガキヒロイン" の綾目さんにはメスガキムーブで馬鹿にされ、地面に這いつくばってプリントを拾う……。
何ともみじめだが、僕みたいな陰キャには相応しいのかもしれない。
そう思いながらプリントを拾っていると……。
「二人とも大丈夫!?」
背後から声をかけられた。
声の主を確認するため振り向くと、そこには "黒髪清楚ヒロイン" の天童さんが立っていた。
なんでこんなところにいるのだろうか。
先ほど出会った一年生の綾目さんはともかく、二年生の天童さんにとっては玄関は遠回りになるはずだ。
何か用事でもあるのだろうか。
僕が考え事をしていると……。
「私も手伝うね!」
天童さんはそう言い、散らばったプリントを拾い始めた。
天童さんは僕みたいな陰キャにも話しかけてくれたし、今だってプリントを拾う手伝いをしてくれている。
さすがはヒロインランキング上位の"黒髪清楚ヒロイン" だ。
でも、なんだか申し訳ないな……。
「ごめん天童さん。迷惑かけちゃって」
僕は天童さんに謝った。
それに釣られてか、山君も謝る。
「天童さん、本当にすみません」
すると天童さんは僕と山君の顔を交互に見た。
「困っている人がいたら助けるのは当たり前でしょ?それに、こういう時はありがとうって言った方が相手は嬉しいんだよ?」
彼女は笑顔でそう言った。
僕は今日の朝、天童さんが話しかけてくれたのにも関わらずそっけない態度をとった。
陰キャの僕と話す事で清楚で可憐な天童さんの格が下がってしまうと思ったからだ。
僕にとってはそれが正解だと思っている。
そんな態度をとった僕に対して、満面の笑みでそう言ったのだ。
あまりにも優しすぎる。
そして、陰キャの僕には眩しかった。
これがヒロインランキング上位の実力なのか……。
言われた通り僕は天童さんにお礼を言う。
「分かった。ありがとう天童さん」
続いて山君もお礼を言う。
「はい。助かります。ありがとうございます」
僕と山君のお礼に天童さんはニコッと笑った。
「よろしい!じゃあ、さっさとプリント拾って理科準備室に運ぼっか!私も運ぶの手伝うし!」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
僕たち三人は黙々とプリントを拾った。
そしてプリントを拾い終え、僕たちは理科準備室へと向かう。
数分程無言のまま廊下を歩いていたが、唐突に天童さんが口を開く。
「あ、あのさ、紫電君……」
それは僕に向けられた言葉だった。
「な、なに?」
僕が聞き返すと、天童さんはゆっくりと話し始める。
「……今日の朝、私から紫電君に話しかけたじゃん?でも、そっけない態度だったし、すぐ廊下に出ていっちゃったから、私何か怒らせちゃったのかなと思って……」
話の内容は今朝の事だった。
でも、僕は何も怒っていない。
天童さんは完全に誤解している。
誤解を解かないと!
「いや、全然怒ってなんかないよ!天童さんの勘違いだよ!」
天童さんは僕の言葉に少し驚いた表情を見せた。
「えっ!?そうなの!?私、いきなり転校生を怒らせちゃったと思って一日中気にしてたんだよ!?」
「そ、そこまで気にしてたの!?」
天童さんのまさかの言葉に今度は僕が驚いてしまった。
「そうだよ!理科準備室に行って紫電君に直接話を聞こうとしてたくらいには気にしてたよ!」
なるほど……。
元々理科準備室に向かっていたから、玄関からは遠いプリントをぶちまけたさっきの廊下にいたのか。
「でも、じゃあなんで紫電君はあんな態度だったの?機嫌でも悪かった?」
僕は天童さんに正直に話す事にした。
「いや、違うよ。天童さんは清楚で美人で一目見て、僕みたいな陰キャとは違う世界の住人だと分かったんだよ。僕と話す事で清楚な天童さんの格が下がってしまうと思ったからそっけない態度になっちゃったんだよ……。天童さんの格を下げないためとはいえ……その、ごめんね……」
話を終えた僕の瞳を天童さんはジッと見つめた。
「あのね紫電君。紫電君が私と話したところで私の格が下がる事なんてない。自分をそんなに卑下しないで!」
「で、でも……」
「でもじゃない!私たちは同じクラスメイトの仲間なの!住む世界だって違わない!私と紫電君は同じ平等な立場なの!だから格がどうとか言わないの!分かった?」
「わ、分かった……」
天童さんの勢いに負け、僕は首を縦に振ってしまった。
まさか僕にこんな事を言われる日が来るなんて……。
"黒髪清楚ヒロイン" 天童美継の事を本気で凄いと思った。
彼女は圧倒的に清楚で可憐だが、決してそれに
僕の考えを根底から覆した。
でも、本当に良いのだろうか?
僕がそう思っていると、天童さんは僕の顔を見つめて小声で囁く。
「次、私にそっけない態度とったらお仕置きだからね?」
天童さんはそう言った後、ニコッと笑った。
マジか……。
これが "黒髪清楚ヒロイン" 天童美継の最大火力……。
彼女はとんでもないヒロインだ……。
僕は心の底からそう思った。
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