第13話 口からドバーッ!? 聖女の聖水大洪水!

洞穴に物理的に詰まって、あたしは身動きが取れない。黒い鎖が体を締め付けてるけど、痛みはやっぱりない。ただ、どこにも行けない。外では裏切り者のホルティアが「どうする!」「計画が!」とか叫んでアタフタしてる声が聞こえる。奥にいる鎖を引っ張ってる奴らも、あたしが動かないから困ってるみたいだ。せいせいするぜ、ざまぁみろ!


このまま詰まってるのも暇だし、どうにかしてこの鎖を外したいんだけど、体が硬直したみたいに力が入りきらないんだよな。


その時だった。


前方、つまり洞穴のさらに奥から、静かで、でもはっきりとした声が聞こえてきた。


「……聞こえますか、聖女……動けぬのなら……魔法を使いなさい……」


ん? 誰だ? ホルティアたちの声とは違う。もっと、落ち着いた、響くような声だ。


「……魔法?、どうやって……?」


あたしが問いかけると、声は続いた。


「……聖なる水を……体内で生成し……それを解き放つ……貴女の持つ……『浄化』の力……あれこそが……聖水生成の、真髄……」


浄化の力が聖水生成? あたしのあの「きれーになーれー」が聖水生成魔法だったってこと? 知らなかった。っていうか、まともに魔法を教わったの、これが初めてだ。


「……具体的な方法は……こうです……体内の聖なる力を……集め……そして……溢れさせるイメージで……」


奥の声の指示が続く。体内の聖なる力を集める……溢れさせるイメージ……。なんか、ちょっと恥ずかしいな、そのイメージ。でも、この状況を脱出できるなら、試してみる価値はある。


言われた通りに、意識を集中して、体の中に満ちているらしい聖なる力を、ぐーっと集めていく感じにしてみた。なんか、あれ?口の中がほんのり温かくなってきた気がする。


そして、「溢れさせるイメージ」か……よし!


あたしは、呪文敵のものを唱えようと口を開いた。


すると――


タラリ……。


何か液体が、口元から零れた。


え、なにこれ? よだれ?


思ったより地味じゃん。聖水って聞いて、もっとキラキラしたのが出るかと思ったのに、ただのよだれみたいだ。


「……もっと……もっと強く……溢れさせるのです……澱みを……全て押し流すように……!」


奥の声が、もう少し力を込めるように促した。


よし、分かった! よだれじゃない、洪水だ! 大洪水を起こすイメージだ!


あたしは、もう一度、体中の聖なる力を口元に集中させて、今度は思いっきり――


ドバアアアアアアアッッッ!!!!!


あたしの口から、制御不能なほど大量の液体が、文字通り滝のように、いや、大洪水のように、勢いよく噴き出した!


それは、キラキラと輝く、透明な水……ではない。どろりとした、粘性のある、でも輝きを放つ、まさに「聖なるよだれ」と呼ぶしかない液体だった!


ドバーッ!ドバーッ!


凄まじい勢いで溢れ出した聖水よだれは、洞穴の奥に向かって一気に流れ下った。洞穴の中は、あっという間に聖水よだれの濁流に飲み込まれていく。


「ぐああっ!?」「な、なんだこの水は!」「聖なる気配……だが、この粘性……!」


洞穴の奥から、鎖を操っていたらしき奴らの悲鳴が聞こえた。どうやら、聖水が効く相手だったみたいだ。


聖水よだれの大洪水は、奥にいる敵を文字通り一網打尽にしたらしい。悲鳴はすぐに止まり、何かが溶けるような、嫌な音が聞こえた。


敵が倒れたからだろうか。あたしの体を締め付けていた黒い鎖が、みるみるうちに力を失い、パチンパチンと音を立てて切れていく。拘束が解けた!


洞穴の奥からは、もう敵の気配はしない。聖水よだれの濁流だけが、ゴウゴウと音を立てて流れ続けている。


外では、ホルティアがさらにパニックに陥っていた。


「な、なんだ!? 洞穴から凄まじい聖なる力が! そして、この水音は!?」


「神官長殿! 奥で何かが起こりましたぞ!」


「計画が! すべてがおかしい! 一体、聖女は何をしたのだ!?」


あはは! 見ろよ、裏切り者! あんたの計画は、あたしの聖水よだれでパーだよ!


体が自由になったあたしは、洞穴に詰まった状態から抜け出すために、少しずつ体を動かした。まだちょっと挟まってるけど、鎖がないから大丈夫だ。


奥の方から聞こえてきた声は、もう聞こえなかった。誰だったんだろう? あたしを助けてくれたみたいだけど。


洞穴の奥からは、まだ聖水よだれの濁流が続いている。もしかして、この聖水で洞穴の中を全部浄化してるのかな? だとしたら、すごい魔法だ。


あたしは、聖水よだれが引き始めるのを待ちながら、洞穴の奥に何があるのか、助けてくれた声の主は誰なのか、気になって仕方がなかった。

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