第12話 聖女様が詰まりました。計画通り!?

黒い鎖にあたしの巨体が絡みつかれ、ずるずると洞穴の奥へ引きずり込まれていく。入り口は狭かったけど、ホルティアは「奥は広くなってる」って言ってた。畜生、あの裏切り者の嘘つきめ! 鎖の力は強いけど、こんな鎖、本気出せば引きちぎれる――はず、なんだけど、なんか体がうまく動かないようにされてるっぽい。力が入りきらない。


真っ暗な洞穴の中を、埃っぽい空気を吸い込みながら進んでいく。ゴツゴツした壁があたしの体に擦れて痛い……って、あれ? 痛くない。そういえば、ガイアのオバちゃんに痛み軽減能力をつけてもらってたんだっけ。役に立つじゃん、あのオバちゃん!


でも、引きずり込まれるのは嫌だ。早くこの鎖を何とかしないと。


さらに奥へ進んだ、その時だった。


ゴリッ……ゴゴゴゴ……!


あれ?なんか壁が急に近くなった?


鎖の引っ張る力は変わらないのに、あたしの体が前に進まなくなった。


ズズ……ギギギギ……!


背中と両サイドの壁に体が挟まって、全く動けない。鎖がさらに強い力で引っ張るから、体がミシミシいうような感覚があるけど、痛みはやっぱりない。ただ、物理的に、完璧に、詰まった。


「な、なんだ!?」


洞穴の奥から、鎖を操ってるらしき奴の声が聞こえた。焦ってるっぽい。


そして、洞穴の入り口付近から、もっと焦った声が響いてきた。


「な、なにをしている!? 早く引きずり込め! なぜ止まるのだ!」


裏切り者、神官長ホルティアの声だ。さっきまでの冷酷な声じゃなくて、元の、ちょっと高い声に戻ってる。動揺してるのか?


「で、できません! 対象が、洞窟の途中で、物理的に挟まって動かないのです!」


奥の声が報告している。


「は、挟まっただと!? 馬鹿な! 古の記録によれば、奥は広くなっているはず!」


「しかし、現実に挟まっております! びくともしません!」


「くそっ! 私の見立てでは、ちょうど通れるサイズだったはず……! まさか、あの地球の女、想定より少しばかり巨大だったとでも言うのか!?」


外にいるらしいホルティアが、頭を抱える声が聞こえる。


「少しばかり」? あんた、あたしの身長いくつだと思ってたんだよ。虫女神が、48メートルって言ってたぞ。この洞穴、奥が広くなってるってのも嘘だったのか、それともあたしのサイズを見誤ってたのか。どっちにしろ、あんたの見立てが甘かっただけだ!


「おい! 奥にいる奴ら! もっと力を込めろ! 無理やりにでも引きずり込め!」


「しかし、これ以上は鎖が切れるかと!」


「切れても構わん! いや切ってはダメだ! どっちだ! と、とにかく、なんとかしろ!」


ホルティアが完全にパニックになっている。指示がめちゃくちゃだ。


「くっ……まさか、ここで詰まるとは……! この場所を選んだのは、完璧だと思ったのに……! 計算が狂った……すべて、あの規格外の体のせいだ!」


遠くで、教皇様たちが「ほ、ホルティアめ……!」「聖女様が、聖女様が挟まっておられる!」と騒いでる声も聞こえる。エルグリッドとアンダイドも、きっと「ありえん」「物理的に、詰まっただと」とか言って呆然としてるんだろうな。目に浮かぶようだ。


鎖は相変わらず強い力で引っ張ってるけど、あたしは微動だにしない。完全に、岩と一体化してる。


ホルティアの焦燥する声が、洞穴の中に響き渡る。


「どうする!? このままでは、計画が……! 聖女を奥の祭壇に運び、魔力を吸収する儀式を始めなければ……!」


儀式? 魔力吸収? やっぱり、あたしの力を狙ってたのか。でも残念でした! あたしは、この洞穴に詰まって、どこにも行きません!


鎖に拘束されているのは変わらないけど、物理的に動けなくなったことで、逆にちょっと冷静になれた。この状況、案外悪くないかもしれない。少なくとも、これ以上奥に連れて行かれる心配はないし、外にいる教皇様たちも無事っぽい。


問題は、この鎖をどうにかして、この挟まった状態から抜け出すことだけど……。


洞穴の入り口から、ホルティアが何かを叫んでいる声が聞こえる。もう完全に作戦が破綻して、アタフタしてる様子がありありと伝わってくる。


見る目のないあたしを罠にかけたのは見事だったけど、詰まることまでは想定外だったみたいね。ドンマイ、裏切り者さん。


あたしは、洞穴の壁に挟まったまま、ホルティアの焦った声を聞きながら、次の手を考え始めていた。

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