可愛いは僕の罪、僕は世界を狂わせる

(前半タイトル:僕の可愛いは世界を壊す)


ぱっつん前髪をアイロンで伸ばして。

リップの艶を確かめて。

真っ直ぐに鏡を見る。


カールしたまつ毛も、潤んだ唇も、きらきらの爪先も。

完璧なんて言葉じゃ全然足りない。

選ばれし美、可愛さの神託。

唯一無二の特別な存在――それが、僕。


 

僕はね、めちゃくちゃにしてやりたいんだ。

この世界を、僕のこの罪な可愛さで。


面白いと思わない?

ただ歩いているだけで、視線が集まるの。

――なあんて嘘、ほんとは知ってる。

みんな僕の可愛さに、心を撃ち抜かれてるってこと。

それなのに気づかないふりをするのに必死になって。

可哀そうにね。


僕は僕のルールで、笑って、生きる。

それだけで世界が歪む。

常識や正しさが崩れていくのが、たまらなく気持ちいい。

僕は笑う。

笑いながら、世界を狂わせる。

 


え、君も僕みたいに可愛くなりたいって? 

ふふふ、無理だよ。

真似しようなんて、滑稽だよね。

でも、努力する子は嫌いじゃない。

少しくらいなら導いてあげる。

優しい僕に、感謝してよ?


 

始まりはリップ、僕はそうだった。

唇がほんのりピンクになるだけで、魔法にかかったみたいに可愛くなれた。

そんな小さな魔法を積み重ねて、僕は可愛いを完成させた。

肌はパープル系の下地で透き通らせるの。

コンシーラーで痛みを隠して、見せたくないもの全部、なかったことにしてあげて。

まつ毛を上向きに跳ねさせたら、瞳に光を、涙袋に影を。

眉毛は絶対に整えておいて、これはマスト中のマスト。

余韻にほんのりチーク。

ほら、自然と微笑みたくなっちゃうでしょ?

 

服は、着た瞬間にきゅん♡ってなったら、それが正解。

君のときめきだけを、大切にして。

あえてオススメするなら、ちょっと甘めのゴスロリか、地雷系。

ハードル高そう?

ふふ、逆だよ。

フリルとリボンが何もかもを甘やかしてくれる。

身を委ねてみれば分かる、この圧倒的、絶対的な安心感。

ピンクと黒なんて、もう最高の組み合わせだよね。

足元は断然厚底。

もちろん、ぺたんこのローファーでも全然イイ。

 

仕上げに鏡の前で、にっこり笑う。

笑顔で自分を、褒めてあげて。

今日もウィッグが似合う僕、えらい。

アイライン上手く引けた僕、最強、って。


僕は、SNSに自撮りを上げてる。

だってこんなに可愛いんだもの。

誰であれ、僕を知らずに生きていくなんて、そんな人生つまらないでしょ?

あ、君もフォローしといてね。

そうすれば、君の世界にも、ちょっとくらいは存在してあげられるかもね。

 

僕だって、最初は怖かった。

街の視線も、SNSの反応も。

笑われて、値踏みされて、何度も心を削られて。

男のくせにって、何万回も呪いをかけられた。

 

でもね、僕はその呪いを、ピンクのリップで塗りつぶした。

それが僕の戦い方。

うるつや系は最強だよ。

天使の微笑みに抗う術なんてないんだから。

背筋を伸ばして、胸を張って、ちょっとだけあざとく。

大丈夫、「怖い」は「可愛い」で上書きできる。

 

最後にもう一つ。

声には気を付けて。

特に、咄嗟の声と笑い声。

そこにだけは、まだ隙が残っているから、ね。



 

……あはっ、つい熱くなっちゃった♡


そうだなあ、君のこと、意気込みだけなら認めてあげてもいいよ。

僕ってやっぱり慈悲深いよね。

でも忘れないで。

何度も言うけど、僕の可愛さは神すら見惚れて堕ちるほど。

君は君だけの可愛さを、慈しんでいればいい。

永遠に僕の残光を見上げながら。

 

そうだよ、僕の可愛さは罪。

凡庸に埋もれるくらいなら、可愛いで世界をぶっ壊す。

だからもっと僕を見て、僕を崇めて、そして――もっと狂って。

ときどき、どこまでが僕か分からなくなるけど、それも全部可愛さのせいなんだ。


ほら、今日も誰かが僕を見てる。

羨望と嫉妬の眼差しで、ときには欲望の混じった目で。

その全部が僕への賛美。

だって僕は「可愛い」という名の罪を背負って、この世界に立ってるから。

僕は、僕の可愛さに酔えるくらい、ちゃんとんだから。



 

さあ、跪いて。

選ばれし僕の甘い甘い地獄パラダイスを、見せて

あ・げ・る♡

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