最強王者大会 〜漆黒の空に高笑いを響かせるのは誰だ!?〜

 中二病とは何をもってして中二病なのか。

 生徒会のメンバーをはじめとし、家族や先生にまで聞いて回った。


「中二病なぁ。眼帯したらそれっぽくなるんじゃね?」

「僕の両目はどちらも健在だ。眼帯をしては視野に支障が及ぶと思うんだが」

「でも眼帯をしないと邪眼が利き過ぎるだろ。……言ってて恥ずかしくなってきた」


「やっぱり王道は、手にぐるぐる包帯巻きつけるやつでしょ!」

「どうしてだ? 怪ワタシをしていないのに」

「細かいことは気にしなくていいから。『俺の右手が暴れている!!』って騒いで見せた日には、立派な異常者……げふんげふん、中二病患者……じゃない、立派な生徒会長になれるよ!」


「やたらと長い技名は欠かせないぞ」

「技名……??」

「そうか、馴染みないか、技名」


「先生が漫画を貸してやろう。漫画の中で学ぶといい」

「ありがとうございます!」

「その熱心さを中二病を極めるのに費やすのはもったいないと思うが、まあ、頑張れ」


 などなど、ありがたいことに多数の意見が集まったので、早速実行に移す。

 少し奇抜な言動を心がけた。今まではあまり触れてこなかった娯楽に触れた。


 そうするうちに、周囲に「変わったね」と評されるようになった。


「ハハッ……! 傍目から見ても変化がわかるなら、ありがたい。僕の、いや、オレ様の努力の成果が着実に現れているということなのだからな!」


 僕は胸を張り、優雅に腕を組みながら笑う。

 これで準備は万端だ。


 運命の日、すなわち生徒会長選挙もとい『最強王者大会』が開催される地、第三宿敵ライバルたちの待つ闘技場グラウンドへと赴いた。


 そして――――。


 制服を引き裂かれて倒れ伏した者、口の端や鼻から溢れる鮮血を包帯で抑えようとする者、蹲って呻き声を上げる者。

 地獄を思わせる阿鼻叫喚を前に、僕は首を傾げる。


「えっと、だいぶ賑やかな大会だな?」


「そうであろう、そうであろう! 驚いたのは『心の眼』で視ればわかる。ちなみにワタシも驚いている」


 僕の言葉に答えたのは、さらさらとした黒髪が美しい女子生徒。

 彼女にうっすら見覚えはあった。


「矢見会長!」


「それは仮の名に過ぎぬ。聞いてひれ伏せ。ワタシが真名はフラワー・ザ・プリンセス=シャディネスだッ!!」


 ポスターに書かれていたのと同一の口上だった。

 勢いよく名乗り上げた彼女は、急にしゅんと萎む。


「ところで同志よ。見ての通り、大会はすでに混迷を極めている」


「というと?」


「『俺の方が強い』『自分の方が格好いい』と口論が勃発、なぜか殴り合いのバトルロワイヤルと化した。闇の者たちが一堂に会するとこうなるのだと学ばされた」


 ……なるほど。

 つまりは開始前に会長候補者たちが自滅したわけだ。

 僕は時間通りに来たために、不本意にも唯一無事に生き残ってしまっていた。


「とはいえ、自動的な勝利もつまらないであろう。そこでワタシはたった今決めた。――予定通り、今より『最強王者大会』を執り行う! 出場者はキミ一名。ワタシが直々に受けて立つ」


 生徒会長、否、フラワー・ザ・プリンセス=シャディネスの背後にメラメラと炎が揺らめいているかのように錯覚する。

 金銀に輝くピアスから指輪、ベルト――それらを禁じる高速は彼女が廃した――で彩られ、黒づくめの衣装には血糊が塗りたくられている。今まで見たどんな漫画作品のキャラクターよりも、全身で中二病を体現していた。


 さすが、現生徒会長。


「フッ。ハハッ、ハハハハハッッ!! ほぅ……面白い……実に面白い!」


 特に漆黒ではない普通の青空に高笑いを響かせながら、僕は眼帯を取り、隠していた瞳を晒した。

 毒々しい赤と黄色のカラコン入りの瞳を。


「では、正々堂々、挑ませてもらうぞ」


 先代を打ち倒し、頂点の座を己のものにする。これはこれで非常に熱い展開だ。

 中二病感があって、すごくいいと思う。


 正直なところ中二病度合いを競い合うのはどうすればいいのかわからないが、わからないままに、僕は持てる全力で勝利を掴むべく戦いを始めた。

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