🦇A-2グループ🦇

『逆十字の宴~堕ちた魔女は嬌り妊る~』②

(前半タイトル:逆十字の宴~堕ちた魔女は嬌り妊る~)


 結論からいうと。

 僕らは懸命に走ったものの、次の授業はとうに始まっていて。そして僕は、物理教諭に怒られながらも毅然きぜんと魔女らしい態度を守りつつ、小鹿のように足を震わせる小林こばやしさんの可愛い姿を隣で見守っていた。

 そこまではよかったけど。

 見守る僕を見咎めたらしい教諭の「坂本さかもとは一切反省してないな」という一言で、放課後に反省文を書かされる羽目になった。


 放課後の教室で不平を漏らす僕と、どこか冷ややかな視線を遣る小林さん。廊下を通る人たちが何も言わないくらいにはいつもの光景になりつつある……まさかね。


「まったくもう! 理不尽だよ! ぷぅ!」

「自分のカルマが巡り廻ったと思うことね。主人の窮地に頬を弛ませる従者なんて、とんだユダがいたものだわ」

「え、見てた?」

「魔女を嘗めないことね。従者坂本くんの行動や思考なんて、私には手に取るように視えているんだから。変なこと考えたって、……やめなさい変なこと考えるの!」

「バレたかぁー」

「そんなだらしない顔してたら……! こほん、隠したって無駄よ、……この盟約の頚輪チョーカーがある限りね」

「わぁお」


 最後の最後で負けちゃった。

 思わず顔を逸らした僕の耳許で、「早く終わらせられたら、……その、私だっていろいろ考えてるんだから」と普段からは考えられない、ごにょごにょした声で囁いて、小林さんはそそくさと教室を出ていった。


「わぁ、わぁぁ~」

 小林さんが気に入ってつけている、薔薇と十字架のモチーフをあしらったチェーン付きの黒いチョーカー。校則違反を指摘されても持ち前の気迫で乗りきるくらいに肌身離さず着けてくれているそれは、僕が初めて小林さんにプレゼントした物だった。なんとなく気に入りそうだと思って買ったけど、反応は予想以上で。

 自称している【地平を繋ぐ魔女】然とした態度を滅多に崩さない小林さんが、(たぶん本人は自覚していないだろうけど)とても可愛い笑顔で喜んでくれていた、僕にとっても思い出の品。

 それを持ち出してくるのはズルいって……うわ、顔あっつ。去り際の小林さんの耳も真っ赤だったけど、たぶん今の僕も大差ないに違いない。


「参ったな……こりゃ頑張らないと」

 可愛い彼女が待ってると思うと、心にもない反省の言葉がスラスラ浮かんでくる!


 よし、この調子で……!

麗破レーヴァせんぱぁ~い、たすけてー!」

「へ?」

 反省文を書き上げて、帰ろうとした瞬間。

 窓から入ってきた美化委員会の後輩こと朝倉あさくら桃乃もものが僕にその恵体を押し付けてきて。


 うお、柔らか……。

 意識を持っていかれた一瞬だった。


 せっかく書いた渾身の反省文が風にひらりと拐われて、そのまま廊下の水道へ……

「あぁーっ!!」

「ありゃ、もしかして先輩の大事なもの?」

「うん。すっごく。」

 普段から何かと僕に絡んできて、小林さんからも『従者としての純度が落ちているわね』なんてジト目を向けられる原因にもなる朝倉。それでも、朝倉は朝倉で小林さんとは違う「カワイイ」系統の子だから、構われて悪い気はしない(もちろん小林さんには内緒だけど!)。

 そんな僕でもこれには我慢ならない。


「あ~さ~く~ら~!」

「え、えへへ……さ、さーせんしたー!」

「ちょ待てよ、どうすんだこれー!」


 せめて書き直すの手伝ってけー!

 とか言いながら追いかけたはいいけど、残念なことに教室を出てすぐに見失ってしまって。


「……やめやめ」

 朝倉の逃げ足にはとても追い付けないし、ちょっと濡れてるだけなら反省文も認めてもらえるかも知れない。とにかく、急いで小林さんのところに行こう!


 ただ時間をかけすぎたのか、もう小林さんは帰っていて。何度か来ていたらしい着信に折り返してみても、どうも繋がらなかった。こりゃ、夜に通話する言霊を交わすときお小言もらうかな……その予想に反して、夜になってもスマホは繋がらなくて。


 そして翌朝。

「おはよう、坂本くん」

 どこか弱々しい声音で声をかけてきた小林さんの首には、白いガーゼが貼られていて。


 そうして、【始まったんだ】。

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