第44話 未来への希望
その年の秋、バリンとハイタの領地は大きな収穫を得ることができた。もちろん、バリンの山間部とハイタは茶葉の生産が主だったため、バリンでの収穫が中心だが、ふたつの領は既に一心同体だった。収穫祭は、ふたつの領地を合わせて行われた。来年はさらに、領主のヨルンが恭順を示してくれた、あのネルセンが加わるかもしれない。
「それで? どうしてこんな時期に作っちゃうんですか!」
ジャン=ソールの執務室へ報告に来たエルリングとルーシドに呆れていた。
「いや、ほら領地の様子に安心できたというか。俺たちもいい加減子供を作れるのも最後だろうからとな……」
「本当にゴメン! 新婚だから許して!」
ルーシドがお腹を大きくしていたのだ。こんなところにも女神さまが恵みをもたらすとは……。
「ルーシドが良いなら仕方ないですけど……エルリング? ルーシドの年齢のことも考えてあげてくださいね」
「ルーシドはわたくしより若いから大丈夫ですよね?」――とシャルデラ。
「えっ、そうなの?」
「確か、わたくしより4つ下でしたよね?」
「ええ、奥様の4つ下の89になりますね」
これだよね。祝福で長寿になると齢とか全然わからなくなる。どっちにしても高齢出産だけど。
「ともあれおめでとう。二人とお腹の中の子に祝福があらん事を。あとで魔女を遣わそう」
「ありがとう、ジャン=ソール」
「閣下、ありがとうございます。あと
おまけに地母神様の祝福を授かった二人の子供はたったの
◇◇◇◇◇
「いやー、働いた後の
収穫祭が終わってしばらくすると、他所の地域では涼しくなってくるものだけど、ここバリンではまだ温かい季節だった。これも巨人のなれはてのおかげなのかな。
「シャーは何でも知ってるんだね」
「本当にねえ。こんなもの始めて飲んだよ」
シャルデラとルーシドへ振舞っていたのは水だしのアイスティー。実はお茶にはこの辺り一般の硬水は向かない。しっかり沸かして淹れても、やっぱり少し違う。ハイタは水が軟水に近いので生茶でもおいしく感じる。けど、ハイタまでお茶のためだけに水を汲みに行くわけにもいかない。
そこで思い付いたのが神様からの恵みの水だ。
聖堂騎士のルーシドは、戦神に祈ることで飲み水を湧かせられる。この辺りの人間でも、この神様から分けてもらった水というのは、葡萄酒を入れて香りづけをしたりせずとも、そのまま飲むことに抵抗がない。なんでかは分らないけれど、そういうものなのだ。
そしてその恵みの水。私も飲ませてもらったことがあるけれど、これ、軟水なんだよね。最初はおいしい水くらいにしか思ってなかった。日本でいた頃は軟水ばかり飲んでいたから気にもしなかった。よく考えると、軟水ならお茶に向いてるんだ。
「祝福された水で淹れたお茶はおいしいね。シャルもありがとう」
シャルには魔法でお茶を冷やしてもらっていた。
「3人で作ったお茶だね」
「3人?」
シャルデラに聞き返した。
「シャーが紅茶の作り方をコンラードに教えたんでしょ?」
「あれは…………女神さまに教わっただけで……」
「なんだ、そうだったのかい?」
「ん~~~~~~! お姉さま、おいしいですね、これっ!」
最後にそう言ったのが、シャルデラの曾曾孫のシャルヴァリ。お茶が苦手らしいのに、私たち3人が何やらコソコソやっていたのを見つけて同席した。恐る恐る口を付け、飲んだ感想だった。
「お姉さまじゃないよ……」
「そうですよ、シャーはバリン領の恩人なのですから、お姉さまなんて軽々しく呼んではなりません。敬意を持ちなさい」
「敬意も要らないよ……」
「お姉さま! これ、干し葡萄なんか入れてみるのもよくありませんか?」
「いけません、そんなものを入れては」
「いや、入れてもいいよ。果実水と割って飲んでもいい」
「そうなの?」
「あっ、それっておいしそう! 貰ってくる!」
シャルヴァリが席を立って駆けていった。
勝手に席を立つという非礼を犯したと、シャルヴァリの後ろ姿を叱るシャルデラ。
「奥様は意外と身内には厳しいんですな」――とルーシド。
「そういう訳では無いのですが……。自分がいろいろ失敗したのでしっかりしてもらいたいと……」
「シャルは失敗して反省したからこそ、今が立派なんだと思うよ。だから、シャルヴァリも失敗していいんだ」
失敗したっていいじゃないか。私みたいに死にゲーやってるわけじゃあるまいし。
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