第47話 戦後処理と清算されるべきもの

 ラスボス・ヴァルガス公を倒し、王都エルドラドを救った俺たちは、文字通り英雄として祭り上げられた。

 王宮では連日祝賀会が開かれ、俺は慣れない貴族たちの賞賛と、腹の探り合いに辟易していた。

「カイ・ジンロウ殿、此度の働き、誠に見事であった!」

 正式な叙勲式で、エルドリア国王は俺の功績を最大限に称賛し、騎士爵位と、王都の一等地に屋敷、そして……莫大な報奨金を授けてくれた。その額、なんと金貨10万枚――1億G!

 さらに、冒険者ギルドからも、最高ランクの名誉称号(『運命を切り開く者』とかいう、ちょっと恥ずかしいやつ)と、これまた破格の特別報酬が支払われた。

 フェンやリリア、ミャレーといった仲間たちも、それぞれ相応の評価と報酬を受け取った。ゼノンも、今回の功績で騎士団内での地位をさらに高めたらしい。ヴァルガス派の残党も一掃され、王都にはようやく平和が戻りつつあった。


 全てが落ち着いた頃、俺は一人、仲間たちにも内緒で、ある場所へ向かっていた。

 手には、ずっしりと重い金貨袋。中身は……10億G。いや、正確には、利子も含めた残額全てだ。王家やギルドからの報酬を合わせれば、有り余るほどの金額だった。

 向かった先は、王都にあるフォルトゥナ神殿。表向きは立派な神殿だが、俺にとっては忌々しい借金取りの本拠地だ。

 神殿の奥、普段は誰も立ち入らないであろう一室に、彼女はいた。

「……何の用ですの? 契約は既に完了したはずですが」

 フォルトゥナは、窓の外を眺めながら、少し寂しげな声で言った。

「ああ、そうだな。だから、けじめをつけに来たんだよ」

 俺は、持ってきた金貨袋を、ドンッ! と彼女の前のテーブルに叩きつけた。

「これで、文句ねえだろ! 借金全額、利子も付けて、きっちり返済だ!」

 どうだ! と俺は胸を張った。この瞬間のために、俺はずっと戦ってきたんだ。

 フォルトゥナは、驚いたように目を見開き、そして……ふわりと微笑んだ。それは、いつものような意地の悪い笑みではなく、どこか切なく、美しい微笑みだった。

「……ええ。確かに、受け取りましたわ。カイ・ジンロウ。あなたは……本当に、わたくしの予想を超えていくお方」

 彼女が金貨袋に手をかざすと、金貨は光となって消えていく。

 俺の心の中の、最後の重荷が、完全に消え去ったのを感じた。

 自由だ。俺は、ついに、金銭的な束縛から完全に解放されたんだ!

「やった……! やったぞおおおおっ!」

 俺は、思わず天を仰いで叫んだ。涙が溢れて止まらなかった。長かった……本当に長かった。

 隣では、フォルトゥナが、そんな俺の姿を、ただ静かに、優しい眼差しで見つめていた。


 借金から解放された俺は、仲間たちの元へと駆け戻った。

「終わったぞ! 借金、全部返済した!」

「本当ですか!? やりましたね、カイさん!」

「おめでとう、カイ!」

「ワォン!」

 仲間たちも、自分のことのように喜んでくれた。俺たちは、抱き合ったり、ハイタッチしたりして、この最高の瞬間を分かち合った。

「これで自由だ!」

 俺は、晴れやかな気持ちで空を見上げた。

 だが、ふと、フォルトゥナが去り際に浮かべていた、あの寂しげな微笑みが気になった。

「なあ、あの女神、これからどうするんだろうな……?」

 借金取りとしての役割を終えた彼女は、これからどうするのだろうか。そして、俺自身は? 借金返済という最大の目標を失った俺は、これから、この世界でどう生きていけばいいのだろうか?

 解放感と共に、新たな問いが、俺の心の中に静かに生まれていた。

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