第26話 運に見放された男、ゼノンの暗躍
シャドウコインとの取引を拒否し、仲間との絆を選んだ俺。だが、現実は厳しい。
フェンの容態は依然として悪く、治療費の目処は全く立たない。シャドウコインの脅威も去ったわけではなく、いつまた襲われるか分からない。そして、莫大な借金。
俺は、リリアと共にフェンを看病しながら、なんとか状況を打開しようと足掻いていた。だが、まるで運に見放されたかのように、何もかもうまくいかなかった。
金策のためにギルドへ行っても、受けられそうな依頼はほとんどない。シルバーランクになったはずなのに、なぜか俺向けの依頼だけが極端に少ないのだ。
「おかしいな……」
不審に思っていると、ギルド職員の一人が、こっそり教えてくれた。
「カイさん……あまり大きな声では言えませんが、騎士団からあなたに関する問い合わせがあったんです。何でも、素性の怪しい魔獣を連れ、街で騒ぎを起こしている要注意人物だとか……。ギルドとしても、騎士団を敵に回すわけにはいかないので、しばらくは目立った依頼は紹介できないかもしれません」
騎士団……! まさか、ゼノンの奴か!?
あいつ、俺を排除するために、そんな汚い手を使ってきやがったのか!
道理で、最近街を歩いていると、衛兵にやたらと職務質問されたり、騎士団の連中と思しき連中に尾行されたりするわけだ。
ギルドがダメなら、商人ギルドはどうか。ゴールデン・スケイルのバルツなら、何か仕事を紹介してくれるかもしれない。
だが、バルツを訪ねても、彼は困ったような顔をするだけだった。
「申し訳ありません、カイ殿。今は貴殿に紹介できるような仕事は……。騎士団が目を光らせている相手と取引するのは、我々としてもリスクが高すぎますので」
ここでも騎士団の圧力か! ゼノンの野郎、どこまで俺を追い詰めれば気が済むんだ!
収入源を断たれ、街を歩けば騎士団の監視の目。おまけに、些細な不運が続く。
買ったばかりの安いパンが腐っていたり、道を歩けば上から植木鉢が落ちてきたり(ギリギリ避けたが)、なけなしの金で買ったポーションが偽物だったり……。
これが、【絶対幸運】の反動ってやつなのか? それとも、単に俺の運が尽きただけなのか?
どちらにせよ、状況は最悪だった。まさに四面楚歌。
そんなある日、俺が宿に戻ろうと裏通りを歩いていると、前方に銀髪の騎士が立っていた。
ゼノン・クォーツ。
奴は、冷たいアイスブルーの瞳で俺を見下ろし、嘲るように言った。
「……随分とみすぼらしい姿になったな、カイ・ジンロウ。運に見放された男の末路か」
「テメェ……! 俺に何の恨みがあるってんだ!」
「恨み? 違うな。これは正義だ。貴様のような、運だけを頼りに秩序を乱す存在は、排除されなければならない。それが世界の理だ」
ゼノンは、歪んだ正義感を振りかざす。
「貴様の幸運も、もはや尽きたようだ。騎士団も、商人ギルドも、貴様の味方ではない。シャドウコインにも追われているのだろう? もはや、貴様がこの街に居られる場所はない」
ゼノンは、ゆっくりと剣に手をかける。
「潔く消えることだ。それが、貴様にとっても、この街にとっても最善の道だ」
圧倒的なプレッシャー。こいつは本気で俺を排除するつもりだ。
俺は、後ずさることしかできなかった。力も、金も、運すらも失いかけた俺には、このエリート騎士に立ち向かう術は、もはや残されていないように思えた。
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