第5話

 「ソフィア。いる?」


 玄関の扉がノックされた。

 外から聞こえてくるのはベルの声だった。


 明日、送別会が村全体で執り行われる。

 だから、また明日会おうね、って昨日約束して別れたはずだったのに。


 立ち上がってから私は思わず首を傾げた。

 はてさて、一体全体どういう目的でやってきたのだろうか。

 頭の中は疑問だらけ。


 まあ無視するわけにもいかないので、玄関へと向かい、扉を開ける。


 「ベル?」


 それから外にいるベルの名前を呼んだ。


 「村長が呼んでる」


 前置きもなく、ストレートに目的を話してくれた。

 ちょっとびっくりするけれど、前置きでうだうだするのは面倒なのでこうやってさっさと本題に入ってくれるのはありがたい。

 って、か。村長が呼んでる?


 「なんでよ」


 眉をひそめた。


 「知るわけない」


 そんな返事を貰ったけれど、まあたしかに、知るわけないか、と納得する。


 「面倒ごとかなあ」

 「そう」


 ベルはこくこく頷いた。

 さっきの「知るわけない」って言葉を期待していたのだが、死刑宣告みたいな答えが返ってきて、ただでさえ憂鬱な気持ちを抱いていたのに、その憂鬱な感情は大きくなる。

 適当な言い訳並べて引きこもろうかなとか思う。


 「なんでわかんの?」


 もちろん引きこもるなんてできるわけがない。

 親に引きずり出される、というか無理矢理連れて行かれるから。

 なので少しでも自身の気持ちが前向きになるよう、ベルに探りを入れる。


 「村長の家の周りにいたから」

 「いた? うん? なにが?」

 「人」

 「まあ人くらいはいっぱいいるでしょ」

 「知らない人」

 「…………」

 「あれは多分外から来た人。白い鎧着てた」


 どうしよう。

 話を聞けば聞くほど行きたくなくなる。

 面倒ごとである可能性が高い……という状況から、面倒ごとであるという状況へとシフトしていく。


 「ええ、絶対面倒ごとじゃん」

 「そう。だから言ってる。面倒ごとだって」


 呆れたような口調だった。


 「行かないとダメかな」

 「ダメ」


 悲しいことに即答である。


 「そっかあ、そうだよね」

 「私も行く。だからソフィアも来て」

 「ええ……」


 逃げられないのは理解している。

 だがそれはそれ、これはこれ。

 逃げられないのだとしても、ギリギリまで逃げたい。

 弱い私にはそれくらいしかできないから。


 「ソフィアが来ないと私が怒られる。だから来て」

 「そっか、大変だ」

 「来い」


 ベルには珍しい強い語気。

 驚いて思わず、


 「はい」


 と、頷いてしまった。


 私って弱い。


◆◇◆◇◆◇


 というわけで、やってきました村長の家の前。

 ベルの話を聞いていたので周りにたくさんの人がいるもんだと思っていたが、その外から来たであろう人たちは見当たらなかった。


 「嘘吐いた?」

 「なにが」

 「いないじゃん、白い鎧の人たち」


 村の大人たちはパラパラといるのだが、外から来たと思われる人たちは本当に居ない。

 だから真っ先にベルを疑う。


 「知らない。私が村長と会った時にはいた」


 臆することなく、キッパリと断言する。彼女の頭の中には保険というものが存在しない。基本的に物事をハッキリさせるのがベルのいい所。だからこそ、彼女が「多分」と口にする時は本当に推測なんだなとわかる。

 日常的に多分とか言っている適当人間とは信用度も信頼度も大違い。

 別に誰とは言ってないけどね。


 「村長、連れてきた。ソフィアを」


 ノックもせずに扉を開けて、ずかずかと中に入る。

 面倒臭いなあ、と外で棒立ちしていると、ベルは中から外に戻ってきて、私の手を掴み、ぐいっと手を引いて、中へと戻っていく。


 家の中には村長と、白い鎧を着ているでっけえおっさんがいた。


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