第2話

 「あたしたちマジ冒険者になりたい!」

 「ならん。お前らはまだ子供だ。外には出せん」


 フィンは興奮気味に村の中央で村長に向かって大声で語りかける。

 村長は顔を顰めて、却下した。


 「私たちLv99。ソフィアに至っては限界突破してる」

 「なにを言っておる」


 ベルは大嘘を吐いて、村長に一蹴される。


 「じゃ〜、なにがダメだって言うの? 十五歳で成人じゃ〜ん」

 「精神が未熟だと、言っておるのじゃ。わしもお前らの両親も、村の人もみんなお前らが心底心配なんじゃよ」


 リーナの説得も虚しく、村長に正論を吐かれる。


 そして三人は私を見る。

 ほら、言ってやれ!

 みたいな視線。


 いやー、うーん、勘弁して。


 小さな頃に約束した冒険者の夢はもう諦めた。

 だって、私Lv1だし。

 この村で穏やかに四人で暮らそうよ、って思う。


 だから正直、村長に加勢したい。


 「……村長。こういうのは条件をつけるべきだと思うよ。頭ごなしに拒絶するのはよくない」


 そう。

 無理難題を押し付けて、その条件を未達成にして、ほら無理じゃん。諦めろ、って言えばよい。

 それでもなおやらせろというのなら、「わがまま言うな」って私からも説得できるし。


 「ふむ、そうじゃな。それでは試練を与えよう」

 「試練?」

 「そうじゃ。今から村人を四人連れてくる。お前らがそれぞれタイマンで勝つことができるのなら、冒険者になることを認めよう」

 「ふふーん、そんなの余裕じゃん!」

 「そう? 回復術師ヒーラーの私には厳しい」

 「私も結構不安〜。この村の魔術師の中じゃ弱い方だし〜」


 どうしよう。

 私、Lv1だよ。この村の人と戦うってそれつまりLv99と戦わなきゃいけないということであって。

 えーっと、もしかしたら私死ぬかもしれない。


◆◇◆◇◆◇


 「まずはあたしね! って、おお」


 剣を抜く。

 相手はこの村の警備を担当しているおじさんだ。

 剣の腕はピカイチ。

 なにせフィンの師匠だったりする。


 「師匠!」

 「フィン、お前は強い。俺を殺すつもりでかかってこい」

 「もちろん! マジ言われなくてもやるっての!」


 火花を散らしながら剣と剣をぶつける。

 一振するたびに、小刻みに地面は揺れて、砂埃が舞う。

 お互いにまるで宙を飛び回るように動く。

 人間をやめているような飛躍力。

 そしてなによりも二人とも笑顔だった。


 「アッハッハッハ! いいぞ、いいぞ! フィン、強くなったな! だが、まだ俺には勝てない」

 「師匠こそ、あたしには勝てないし。マジ、まだ全然あたし本気出してないかんね」

 「殺すつもりで来いと言ったろうが」

 「師匠? マジ違うから。師匠なんか本気出さなくてもちょちょいのちょいで殺せるってだけ。マジ楽勝だし」

 「言ってくれるじゃねえーか!」


 剣撃が鳴り響く隙間で会話を繰り広げる。

 どちらも余裕そうだ。


 あの人の相手しなくてよかった。

 私なら死んでた。


 「村長、これ終わらない」

 「だなあ、二人とも楽しんでおる。三人は別の場所でやろうかのお」


 完全に二人の世界に入り込み、ぎゃっはっはっはっ、あっはっはっは、と笑い声をあげながら剣を振り回す二人を置いて、私たちは別の広場へと向かった。





 「次は私かな〜」

 「……」


 魔女の帽子みたいなのを被ったおばさん。

 村の外れに住んでいる魔法使いである。

 もちろんLv99。


 無口で喋っているところを見たことがある人はいないと言われている。


 この人のことを今まで妖怪扱いしてました。すみません。


 「って、喋んないよね〜。まあ、いいや〜」

 「…………」


 無言のまま杖をリーナへ向ける。

 そして瞬きする間もなく、巨大な火球が浮かび上がる。まるで擬似的に作り上げた太陽のようだった。それは豪速球なみのスピードでリーナの元へ飛んでいく。


 「リーナっ!?」


 思わず叫ぶ。


 だが、リーナはニヤッと口角を上げた。

 まるで待っていたと言わんばかりの表情を見せたのだ。


 「無口の魔女さまは大層魔術に自信があると聞いたことがあってね〜。ってことは、さっさと私を仕留めに来ると思ってたんだけど〜、正解ってわけ」


 ぴしゃーんっ!


 きーんと耳に響くような音が鳴る。

 そして淡い色の薄い障壁が展開され、火球を跳ね返す。

 勢いは殺されることなく、むしろ強くなり、火球は放った術者、無口の魔女へと飛んでいく。


 「……あっ」


 無口の魔女が珍しく口を開けたのと同時に村長はぱちんと指を鳴らす。


 火球はぴたりと止まり、やがて爆発した。


 「そこまでじゃ。リーナの勝利じゃな」

 「しょ〜り」


 ぶいっと、私に向けてブイサインを作った。


 へたりと腰を抜かす無口の魔女。

 村長が止めなきゃ死んでいたし、そうなるのも無理ない。


 「でもすごいね。さすがこの村屈指の魔女さん。あの威力、私にはまだ出せない」


 そう言いながら、リーナは無口の魔女の元へ向かい手を差し出す。

 腰を抜かしていた無口の魔女はその手を取って、立ち上がる。


 熱いやり取りがなされているな〜なんて思う。それと同時に、あれ刻一刻と私の番が近づいているなと我に返る。


 「次はベルが戦いなよ」


 生贄を捧げるように、 ベルを差し出した。


 「うん。やる」


 こくりと頷く。


 よし、ベル。負けてくれ。負けてくれれば、私戦わなくて済む。





 「あらあら、よろしくね」


 ベルの前に立ちはだかったのはベルにそっくりな女性だった。

 彼女は……そう、


 「ママ?」

 「ふふ、ベル。そうよ。ママよ。見極めてあげる」

 「ママを殺したくない」

 「あら、それは同じよ。ベル。だから戦い方を少し変えましょう」


 ベルのお母さんは微笑む。

 すると、ベルのお父さんがやってきた。

 ベルは「パパ」と淡白な反応を見せる。喜んでるのか、嫌がっているのかよくわからない反応だ。

 ちなみにベルのお父さんは瀕死の白兎ホワイトラビットを二羽担いできた。


 「あなたありがとう。では、ベル。どちらが早くこの白兎を回復させられるか、勝負しましょう」

 「それなら望むところ」

 「ふふ、やるわよ〜。それじゃああなた。パンって手を叩いて? それが合図よ」


 ベルのお父さんはパンっと手を叩く。ベルのお母さんの言う通り、それが合図となった。

 二人は並べられている白兎の元へ駆け寄り、状態を確認する。

 息の具合、瞳の色、傷の損傷、そして胸の鼓動。

 親子だなあってくらいシンクロした動きを見せて、両方の手のひらを白兎に向ける。目を瞑るのと同時に二羽は煌めく光に包まれる。

 抉れるような傷はみるみるうちに塞がり、ぐったりとさっきまでしていたのにぴょんぴょんと元気になった。

 二羽はまるで怪我など一切していなかったかのように、元気に立ち去る。


 「どっち?」

 「あらあら、どっちかしら?」


 二人は顔を見合わせる。


 そうだ、忘れてた。

 これ勝負だった。


 ズレなくなにもかも同時だったせいで、大道芸でも見ているような気分になっていた。


 「パパ」

 「ねえ、あなた」


 勝負の行方は村長ではなく、ベルのお父さんに委ねられた。

 村長はそれを良しとしているようで、口を挟まない。

 行く末を見守っている。


 「なっ……」


 ベルのお父さんは戸惑いを見せる。

 ベルを見て、ベルのお母さんを見て、またベルを見て、ベルのお母さんを見る。


 「パパ」

 「あなた」

 「パパ」

 「あなた」


 娘と嫁から言い寄られる男性。

 その光景はあまりにも情けなくて、あまりにも幸せそうで羨ましい。


 「……同時。同時で。同時ってことで。勘弁してください」


 ベルのお父さんはそう言って、項垂れた。






 フィンは知らんが、リーナとベルは無事突破した。


 そうなると次は私。

 嫌だなあ。


 「最後はソフィアだな。お前の相手はこのわしじゃ」

 「えっ、村長が?」

 「そうだ。お前にはリーダーの素質がある。なにせあの青いじゃじゃ馬の手網を握り、赤い闘牛を誘導し、脆さには優しく当たれる。誰にでもできることではない。じゃから、村長というリーダー職についているワシが相手じゃ」

 「わかんないけどわかりました。つまり、戦闘じゃなくてなにかリーダーの資質を問う勝負をするってことですね。なるほど、なるほど。そういうことですか。わかりました。受けて立ちましょう」


 死にたくないので、ベルがしていたような勝負の内容へ話を持っていく。


 「いや、勝負じゃ。拳と拳で語り合うんじゃぞ」


 ポキポキ指を鳴らす。

 マジかよ、なんでだよ、なんかさっきリーダーがどうのこうのって言ってたじゃん。なんだったのそれ。


 「それじゃ開――」

 「ソフィアっち〜、それにみんな〜! 師匠の剣折っちゃった! まじやばーい!」


 視界の端っこに見えるフィン。彼女は折れた剣を持って走ってくる。


 「あっ、ちょ、それ持ってこっちこないで……」


 勢い余ってこっちにやってきそうだった。びびって、一歩下がる。


 「うおっ!」


 目の前を拳を握っている村長が横切って、そのまま飛び込むように倒れ込んだ。頭から思いっきり倒れてるピクピクしている村長。

 Lv99なので一撃は重たい。そのせいで交わされて転んだ時の衝撃も大きい。


 「えーっと……」


 とりあえずうつ伏せに倒れている村長の背中に座る。


 「勝利ってことでいいかな?」


 小さくブイサインを作る。


 「強い、村長倒すとか最強」

 「私たちの中で唯一相手気絶させたね〜」

 「ソフィアっちやっぱマジ最強じゃん!」

 「……いや、今のは偶然で。私はなんにも――」

 「ソフィア、お前の勝利じゃ。だからどいてくれ。ワシを殺す気か」


 えーっと、なんか勝っちゃった。


 こうして私たちは冒険者になることを許可して貰った。



◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇


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