クラスの中華系美少女がなぜか俺だけになつく。

あかさび

第1話 憂鬱な新学期

 プロローグ 6歳の追憶

 【もう、おわかれなの?】

 目の前には泣きはらした少女がいた。

 【きっと、また会えるよ。】

 ここでオレが泣いたら、さらに彼女を悲しませてしまう。そう思ったオレは、涙をこらえて彼女にこう伝えた。

 【パパはこっちでのしごとがおわったんだ。オレは日本に戻らないといけない。】

 【だけど、オレたちの思い出は永遠だ。】

 引っ越し前によくあるセリフを言い終わった後、二人は抱きしめあった。このぬくもりもしばらく感じることはないだろう。

 【元気でな。あーちゃん。きっとまた会える。】

 【ぐすっ……。うん……。ぜったいに会いにいくから。】

 早春、遠い異国の空港で幼い2人は、はかない約束を交わした。


 ――またね、こーくん

 

 ※※※※※


 「ねぇ、久しぶり――。」

 「うおっ!」

 ……やべえ完全に机で寝てたな。

 しかしやけに懐かしい夢を見たな。あの子は今でも元気でやっているのだろうか。

 待てよ。

 俺はふと目線を上げた。

 目の前の女の子は誰だ?

 確かに見覚えのない人物に向かって困惑の表情を浮かべることしか出来なかった。

 クラスメイトからの視線が痛い。

 ただ。

 話しかけてくるかわいらしい少女には、どこか見覚えがあるような気がしたのは気のせいだったのだろうか。


 第一章 波乱な高校生活の幕開け

 「ご入学おめでとうございます。」

 俺こと結城光晴は高校の入学式に来ていた。

 中学では比較的に真面目に勉強に取り組んだ甲斐もあって、都内でも難関の一端に含まれる私立に第一志望で合格することができた。

 ここでは平均程度の成績を維持すれば大学へ推薦がもらえるので、勉強もほどほどに、今度こそ人生で初めての落ち着いた学校生活を送ろうと俺は思った。

 これより、今年度の入学式を終わります。生徒のみなさんはこの後HRがありますので教室でお待ちください。

 校長の長い話も聞き終えて、俺は廊下にある編成表を見て自分のクラスと出席番号を確認した。

 (……1年A組40番か。40人単位のクラスが6つ。)

 実は内心かなり喜んでいた。一学期のうちは基本的に出席番号順の座席だ。出席番号が最後であれば教室の一番後ろの端を確保できる。

 (悪くないスタートだな。)

 窓からの柔らかな春の日差しを浴びながら俺はそう思いつつ、担任が入ってくるまで少々寝ようと思って目を閉じた。


 「ねぇ、久しぶり――。」

 「うおっ!」

 ……やべえ完全に寝てたな。

 しかしやけに懐かしい夢を見たな。あの子は今でも元気でやっているのだろうか。

 待てよ。

 俺はふと目線を上げた。

 目の前の女の子は誰だ?

 思いもしなかった。

 今度こそ平穏に過ごそうと思っていた学校生活がこのような形で崩されるとは。

 目の前にいる見覚えのない人物に困惑の表情を向けることしか出来なかった。

 「おい、学年一かわいいと言われてる子があの陰キャに声をかけたぞ。」

 入学式が終わって数分でどうやらある程度集団ができたらしい。まあ友達を作る気はまだないからどうでもいい。

 この際陰キャなのは認めるが、とにかくクラスメイトからの視線が痛い。奥底にあるいやな記憶がよみがえってくる。

 俺はただ平穏な学校生活を送りたいだけなんだ。

 「……誰だよ。」

 彼女の表情が少し強張ったのは気のせいだろうか。

 「ご、ごめん。そんなつもりじゃ……」

 「俺の時間を妨害するな。」

 これでいい。無駄な交流は俺にはいらない。

 (おいおい、あいつ断りやがったぜ。)

 これ以上新たな友達は俺には必要ない。

 一時は必要だと思っていた時期もあるが、長い年月で風化してしまった。

 机に突っ伏したが、後味の悪さになかなか寝付けなく、そのまま新しい担任は教室に入ってきた。

 (しかし彼女の雰囲気、やけに懐かしいような、、、?)

 夢の中の記憶をたどるがどこにも結びつかなかった。

 名前くらい覚えていたらなあ……。

 覚えていたところで14億人から探すのは不可能に近いが。

 「…き……結城!!」

 「うぇ??」

 クラスからどっと笑い声が起きた。

 「自己紹介、お前の番だ。」

 ふと見ると、初老の担任が顔をしかめて俺を見ていた。

 まあ、気は進まないが適当にやるか。

 「……40番結城です。15歳。趣味は読書。以上です。」

 クラス中の失笑とやる気のない拍手を聞きつつ、時間が来てHRはお開きとなった。

 

 俺は配布された資料をバッグに突っ込み、すぐさま教室を後にした。

 (急いで帰るか。読みたい本もたまっているし。)

 学校の最寄駅までの道のりを歩いているととたんに背中に衝撃が来た。

 「よっ、光晴。」

 びっくりした、ほんとこいつ元気だよな。

 俺の唯一の友達、山本吉輝は生粋のお人よしだ。

 中2と中3で同じクラスになり、さらに今年も同じ学校に進学した。俺の中では親友と呼べる関係にまで上り詰めていて、何かと俺のことを気にかけてくれているうやつだ。

 「暑苦しい、離せ。」

 「ほんとお前は素直じゃないな。」

 口ではこう言っているが実際にはそう思っていない。

 当時どん底にいた俺を救ってくれた恩人だ。

 「お前には感謝しているよ。」

 「なんのことだか。」

 いや、この話はまた今度だな。

 とにかく、俺と同じ高校に通うにはもったいないくらいのいいやつだ。

 文武両道、教師からの評判も高い。

 そんな彼がなぜ俺と同じ学校に通うのか。

 「すまん、今日ちょっと用事があって、急ぐわ。」

 「おう、またな。」

 今年は同じクラスにはなれなかったが、こいつとは長い付き合いになりそうだ。

 さて、駅までゆっくり歩くとするか。

 その矢先のことである。


 「結城光晴くん。」

 は?

 なぜ俺の名前を知っている。自己紹介では苗字しか言っていないはずだが。

 そんな俺の考えとは裏腹に、彼女は続ける。

 「忘れたとは言わせません、本当に私のことを忘れたんですか?」

 身に覚えがないな。

 「お前マジで誰だよ。」

 一人で帰るつもりだったのに横に並んで来た。

 口ではこう言っているが、くそっ……。学年一かわいいと言われているだけあってなんかシャンプーのいい匂いがするしスタイルもいいし胸も大きくて……。だから俺の近くを歩くなっ。俺も男だぞ。

 「それはもう自己紹介で言いましたー。人の話聞いてないんですか?」

 知らねえよ。

 多分考え事してたか寝てたわ。

 「じゃあもう一度言うね。私の名前は、――っていいまーす。」

 え?

 あれ?

 なぜか懐かしさを感じた。

 でも、苗字は違うし、彼女は確か……。

 大事な記憶な気がするのに。

 俺は歩みを止めて立ち止まってしまった。

「まだ思い出せないのかな?」

 彼女は俺の前に来て、そして大胆な行動に出た。

 俺は抱きしめられた。

 一瞬、頭がフリーズした。この感覚は何年ぶりだろうか。

 顔が熱い。

 よく見ると彼女も上気した顔で、目もうるんでいるような気がする。とりあえず俺の理性頑張ってくれ。

 彼女の顔が耳に近づく。まずい、何がとは言わないがいろいろとまずい。体がいろいろと反応してしまうああ背中がぞくぞくする。

 吐息がかかる。そして。

 【こーくん、やっと会えたね。】

 【あーちゃん……?】

 え?

 「じ、じゃ、ま、また明日っ!」

 羞恥で真っ赤な顔の彼女は駅に向かって駆けだした。

 あ、え?

 俺はなんて言った?何を口にしたのか?

 非常に重要なことだと思い、働かない頭で俺も追いかけようとしたがさらに衝撃の事実に気が付く。

 (まずい、下半身に血が集中してる)

 ……おかげで駅までかばいながら行く羽目になった。



 とにかく。

 彼女とは、切っても切り離せない関係になりそうな予感がした。

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