第31話
あれから三日が経った。
その三日間、ヴィルト達は鍛錬に明け暮れた。
ヴィルトを敵とした鍛錬だ。ヴィルトも人型での戦いに慣れるために断る事無く受け入れた。
そして今日も、ヴィルト達は訓練所で戦っている。
「はぁ!」
ヴィルトが戦斧ツォルンを振り落とす。
その一撃をヴォルフが大剣を持って防ぎ、その隙にローニャが斬り込む。
ヴィルトはツォルンを手放し後ろにジャンプ。ローニャの一撃を回避する。
「戻れ!」
ヴィルトが手を翳すとツォルンが一人でに飛ぶ。
魔王が所有する武器全てにある主の元への帰還能力だ。と言っても視界内にある場合しか機能しないが。
ヴィルトはツォルンを持つ。
柄の上の方を持ったスタイルだ。
その状態でローニャに斬りかかる。
「どりゃりゃりゃりゃりゃ!」
ツォルンによる攻撃をローニャはどうにか盾を構えて防ぐ。
ヴィルトも聖力などを使った強化を一切しないお遊びだからこそ防げる攻撃だ。
ガンガンと金属同士がぶつかり合う硬い音が鳴り響く。
その隙にヴォルフは背後に回る。背後から大剣を振り落としの攻撃だ。
ヴィルトは気配で感知し真上にジャンプ。ヴォルフの攻撃を回避する。
「そぉーれ!」
ヴィルトはツォルンを振り回しながら落下する。
思わず二人はジャンプで後方に跳び、回避する。
地面から衝撃波が生じる。圧倒的膂力を持った攻撃だ。
暴風と呼べる衝撃波を二人は防御して耐える。
「さぁ、続きといこうか!」
■
その戦いを、遠くから見る者達が居た。
「飽きずによくやるわねー」
「これから大会だというので、気合も入っているのでしょうね」
リア、アンタレスの二人と非番の騎士達だ。
リアは元々戦えはするが戦いその物を避けたいタイプの人間だ。
戦闘能力を得たのも旅をするうえで必要であるが故であり、自らの力を鍛えたり披露したいという欲求は無い。
アンタレスは既に自身の力は最高位の物であるという自負がある為鍛錬などする気はない。
残る騎士達は鎧姿ではなく動きやすい恰好をしている。非番であるが故の格好だ。
彼ら彼女らも国を守る者として自らの糧になるのではないかとヴィルト達の戦いを穴が開く程見ているのだ。
「ふむ。精が出ているな」
其処に声をかける者が居た。
豪華絢爛な服を着た者。貴族らしい金髪碧眼の容姿。歳は四十代程。
初老に差し掛かっている男、国王であるグヴィン・ヴェル・ゼーティだ。
グヴィンの後ろには見た事の無い男が立っている。
「こ、国王陛下?!」
慌てて騎士達が片膝を付き、リアも遅れて片膝を付く。
アンタレスは遅れて渋々と言った様子で片膝を付いた。
アンタレスもまたリアから国王や貴族相手の態度というのを言わされているのだ。
「あぁ。楽にしてくれて結構だ」
グヴィンはそう言うが、ハイそうですかと直ぐ楽にできるものなどいやしない。
だがアンタレスアは言われたから良いだろの精神で立ち上がった。
「こ、国王陛下?!」
そして模擬戦をしていたヴィルト達にも国王の姿が視界に入る。
慌ててヴォルフが大剣を収め国王に走り寄る。
優勢だったヴィルトはえぇ、という目をするも諦めてツォルンを影の中に仕舞い、ヴォルフに追従する。
ローニャもまたヴィルトに続いて動く。
「国王陛下。何か御用でしょうか?」
ヴォルフはキリっと背筋を正し、グヴィンに問いかける。
「何、用があるのはシュヴァイン殿達だ」
「わ……たしに用があると?」
ヴィルトは何とか敬語を使い国王相手に問答する。
「ああ。まずは紹介しよう。彼はナハル。つい先日ハンデル商会の商会長になった男であり、君たち特別外遊団の支援者でもある」
ナハルと呼ばれた男は一歩前に出る。
長身の男だ。身長は二百二十センチはあるだろう。
筋骨隆々の体をしている。服の上からでも分かるほどに筋肉が着いている。
黒い体に吸い付くタイプの服を着用し、同じく黒いズボンと靴を履いている。
「始めまして、私はナハル。ハンデル商会の会長だ……だが君たちには母の……ノワール母さんの息子、と言った方が良いかな?」
その言葉にヴィルト達一行は驚愕する。
「息子?!お前息子が居たのか?!」
ヴィルトは影の中に向かって問いかける。
ノワールはにゅっと器用に頭部だけ出す。
「はい。私の息子です。息子に商会を預けたんですよ」
「お前結婚とかするのか……そのことに驚きだわ」
「別にいいじゃないですか、結婚して子供作ったって」
にゅっとまたノワールは影の中に入ってしまう。
長時間日光を浴びると死にかねないので仕方の無い事だが。
「それで本題だが、君たちに渡した報酬五千万ルエをハンデル商会の銀行口座に預けたんだ」
グヴィンはそう言う。
この世界にも銀行というのはある。
と言っても大半が貴族運営のものばかりであり、利用者もまた大半が貴族や商人だ。
だがハンデル商会はこの大陸一の商会だ。銀行の支店もこの大陸中にある。
「成るほど。大金を使いやすくしてくれたのですね」
助かります、とヴィルトは感謝する。
「あぁ。君たちに渡した外遊団証がカード代わりにも使えるようになっている。是非活用してくれたまえ。ついでに税金関連も君たちは基本免除だ」
至れり尽くせりだな、とヴィルト達は感じる。
だが魔竜を打ち倒した存在となればこれぐらいあるのかもしれないと納得する。
「では私達はこれで」
グヴィンはそう言うとナハルを連れて訓練所を去るのだった。
■
「どうだった、彼女は」
グヴィンは王城の廊下を歩きながら隣を歩くナハルに問いかける。
「……恐ろしい存在です。あの膨大な、無限にも思える魔力……母が主と認めるのも頷けます」
戦闘者は相手の聖力量や魔力量をある程度見抜ける。
自身もまたそういった超常のエネルギーを扱うからこその感覚だ。これは達人が相手の普段の動きを見て実力を測るのに近いだろう。
「……それほどに凄まじいというのか」
そして当然戦闘者ではない、単なる王族に過ぎないグヴィンはそういった感覚が分からない。
だがある程度戦闘者としても戦える側であるナハルの評価を前に戦慄する。
無論事前に騎士団団長などからも話を聞いているが、そういった人間全員が『恐ろしい』『戦いたくはない』と評価していれば恐怖もするというもの。
「やはり取り込み策は正しかった、か」
「でしょうね。あれと敵対すれば間違いなく国が滅ぶでしょう。魔力を解放するだけでこの王都が消し飛びます」
「それほどか……まったく、実力者というのは厄介だな」
はぁ、とグヴィンは溜息を吐く。
「しかし実際に目にしてわかったが、本当に強いのだな」
今回態々宰相を通さず説明したのはヴィルトの人格面をもう一度見る為だ。
今回は何故か敬語を使っていたのでやはり敬語を使えるだけの常識は持っているが、ならなぜ前回会った時に使わなかったという疑問が生じる。
だがああいった手合いに人の常識で考えても仕方が無いか、とグヴィンは思考を放棄する。
グヴィンは少し前からヴィルト達を見ていた。ヴィルトとローニャ、ヴォルフの戦いを見ていたのだ。
如何に評価として恐ろしいと聞いていても、実際に見て見なければ分からないとここ最近騎士団団長が戦っているという噂を聞きつけ身に行ったのだ。
(二対一で圧倒していた。実力は疑いようが無い、か)
なんでこんな化け物が居るのだろう、と胃が痛むのをグヴィンは考える。
神託による魔王復活に加え勇者の選定。胃が痛くなるような事ばかりである。
はぁ、とグヴィンは溜息を吐くのだった。
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