第43話「レインとの再会」

封印修復の成功から数日後。


リュシアはまだ子供の姿のまま、神殿内を歩いていた。


ふと、炎の守護者に呼び止められる。


「リュシア。伝えておくべきことがある。」


リュシアは小首をかしげる。


「何でしょう?」


守護者は慎重な声で続けた。


「この神殿には、君たち以外にも訪問者がいる。


数日前、封印を妨害しようと侵入した魔導士を捕らえた。」


リュシアの眉がひそめられる。


「侵入者……?」


守護者は頷いた。


「若い女性だ。闇の力を操る者。」


リュシアの心臓が跳ねた。


(もしかして──)


「……その人に、会わせてもらえますか?」


守護者はしばし考えた後、静かに答えた。


「許可しよう。だが、油断するな。」


***


神殿の地下深く、重い扉が続く通路を進む。


空気は冷たく、重い沈黙が支配していた。


守護者に導かれて辿り着いた牢獄の前。


鉄格子越しに、中にいる人物が見えた。


黒衣に身を包んだ小柄な少女。


足を抱え、俯いていたが──リュシアの足音に気づき、顔を上げた。


青白い顔。鋭い灰色の瞳。


忘れもしない。


「……レイン。」


リュシアの声が震える。


牢の中の少女、レイン・シャドウブレイドも目を見開いた。


「リュシア……?


なぜ、そんな姿に?」


戸惑いと困惑を隠しきれない声だった。


リュシアは、鉄格子越しにそっと微笑んだ。


「ちょっと……事情があってね。」


***


リュシアは腰を下ろし、レインと同じ目線に合わせた。


「……何故ここに?」


低く問うリュシアに、レインは冷たく答えた。


「封印を破壊するため。


それが、私の新たな主──アルカード様の命令だから。」


リュシアは目を細める。


「アルカード……やっぱり、あなたも……」


レインは肩をすくめた。


「あなたのような天才には、わからないでしょうね。


凡才が、どんなに努力しても届かない絶望を。」


レインの言葉には、怒りと悲しみがないまぜになっていた。


***


かつての魔導書院での記憶が、リュシアの胸に去来する。


──リュシアは、ずば抜けた魔法の才能を誇っていた。


──周囲の生徒を「できて当然」と見下し、無意識に傷つけていた。


「……私は、そんなに傲慢だったの?」


リュシアは小さく呟いた。


レインは鋭く言い返す。


「傲慢だったよ。


君は、私たちの必死の努力なんて、最初から目にも入っていなかった。」


「私は……君たちに何も気づけなかった。」


リュシアは唇を噛みしめた。


──あの頃の自分の傲慢さが、確かにレインを傷つけていた。


***


リュシアは深く頭を下げた。


「ごめん、レイン。


私は自分の力しか見ていなかった。


君がどんな思いで努力していたか、考えもしなかった。」


牢の中で、レインの目が一瞬だけ揺れた。


「……謝るなんて、君らしくないね。」


リュシアは苦笑した。


「今の私は、あの頃とは違うよ。」


小さな体で、しかし確固たる声で続ける。


「魔力を失っても、子供の姿になっても……


私は、私の道を歩く。」


レインは顔を背けた。


「強いね。魔法も使えないのに。」


リュシアは静かに言った。


「力だけが、強さじゃない。


私は、それをようやく理解できた。」


***


牢の中のレインは、しばらく黙り込んだ。


そして小さく、しかし確かに呟いた。


「……アルカード様は、私に力をくれた。


だけど……あの力には……何か、恐ろしいものがある。」


リュシアは鉄格子越しに手を伸ばした。


「まだ間に合うよ、レイン。


私たちは、変われる。」


レインは手を伸ばしかけ──そして引っ込めた。


「……そんなに簡単にいかないよ。」


しかし、その声は、以前よりもずっと柔らかかった。


リュシアは無理に迫らなかった。


「……いいよ。ゆっくり考えて。」


立ち上がり、レインに微笑みかけた。


「私は、待ってるから。」


レインは俯きながらも、小さく頷いたように見えた。


──不完全な和解。


けれど、それは確かに、小さな一歩だった。

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