第41話「決断と代償」

封印石の前に立ったリュシアは、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。


(怖くないわけじゃない。けど──今、私がやらなきゃ。)


両手を封印石に向け、静かに呟いた。


「封印を守るため……お願い、力を貸して──!」


その瞬間だった。


彼女の内側で、何かがはじけたように魔力が暴走し始めた。


「なっ……!? 魔力が急上昇してる!?」


ザックが思わず叫ぶ。


周囲の空気が振動し、青白い光がリュシアを包む。


銀色に輝く長い髪が風に舞い、彼女の瞳は鮮やかな金色に変化していた。


「……まさか、これが……リミット解除……?」


ガルドは剣を構えながら震える拳を握る。


エルナは祈るような眼差しで、精霊たちと共に彼女を見守っていた。


***


リュシアの体から放たれる膨大な魔力は空間そのものを歪めるほどだった。


ひび割れた封印石に、青白い魔力が注ぎ込まれていく。


「──炎の封印、再起動。


古の契約に基づき、ここに力を結び直す!」


ザックは驚愕と興奮に満ちた手で魔導ノートを走らせていた。


ガルドとエルナは一言も発せず、ただその背中を見守る。


守護者もまた、魔法陣を支える術式を維持し続けていた。


***


(あと少し……!)


全身を蝕むような痛み、痺れ、焼けつくような魔力の奔流。


だがリュシアは、歯を食いしばって魔力を封印石へと注ぎ続けた。


「これで……終わりにするッ!」


最後の力を込めて叫び、封印石へと魔力を流し込む。


音を立てながらひび割れが閉じていき──


封印石は安定した赤い光を放ち始めた。


守護者が静かに呟く。


「……成功だ。」


***


リュシアはその場に崩れ落ちた。


「リュシア!」


ガルドが駆け寄り、倒れた彼女を抱き留める。


エルナはすぐに癒しの魔法をかけ、ザックは記録を続けながら呟いた。


「驚異的だ……完璧な封印修復……」


守護者も、彼女を見つめて言った。


「立派だった。真の七賢者の力を見せてくれた。」


リュシアはうっすらと目を開き、微笑んだ。


(……みんな、ありがとう……)


そして再び、意識を手放した。


***


「彼女の体には、想像を超える負担がかかっている。」


守護者の診断に、ザックが頷いた。


「防衛機構が作動するはずです……。


彼女の身体は、おそらく”子供の姿”へと一時的に戻る。」


「魔力暴走の副作用か?」


ガルドの問いに、守護者が答える。


「彼女の命を守るための自己調整です。


若年化は、魔力消費を抑えるための自然な反応なのです。」


エルナはそっとリュシアの手を握りしめた。


「大丈夫……今は、休ませてあげよう。」


守護者はうなずき、告げた。


「療養室へ運ぼう。」


***


ガルドがリュシアを抱き上げ、神殿の静かな療養室へと運ぶ。


清潔な寝台にリュシアを寝かせ、エルナが癒しの魔法を施す。


ザックは淡々と経過を記録した。


「明日の朝、彼女は子供の姿になって目を覚ますだろう。」


守護者の言葉に、三人は静かに頷いた。


安堵と誇り、そして絆の感情が、その場に満ちていた。


──リュシアは、再び目覚める。


仲間と共に、運命を切り開く新たな一歩を踏み出すために。

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