Ruta215(1)
チリ、オソルノ
国道5号線の高架を降りた側道に、ジープに無理矢理パイプを1本ポン付したような車両が8台集まっていた。その側で乗員たちが思い思い野営している
『隊長、良かったんですか?夜襲しなくて』
『馬鹿言うなよ、あっちは装甲化されてる半個捜索中隊、金かけてるTK1台にRCVが3台、戦力評価がしにくいロボット野郎も1台。夜中に動いたってあっという間に見つかって蜂の巣か細切れになるだけだぜ』
と、対戦車部隊長は手にした糧秣缶の中身をスプーンでかきこむ。もう日は出て朝になっていた。自分達も連中について来て昨日到着したばかりだったから、エンジンも程よくあったまっていて、都合よく赤外線カメラにくっきりはっきり写ってしまった事だろう。それを冷やすと言う体でも一時休止は必要だったし、こっちが手を出すかどうかはあっちにとって知ったこっちゃないから、徹夜を強いると言う意味で間を空けたのには意味があった。機械力に頼れるのは羨ましい事ではあるが、マンパワーで勝てるなら取り得る手段もまぁ、ありはするんだ
『根本的に俺たちが使えるカードは待ち伏せしかねぇのに、やれ空港を制圧しろだ拘束しろだなんて簡単に出来るわけねぇだろ。でっけえ槍が付いてるからって俺たちはジープが8台しかねんだからな』
その、でっけえ槍たるパイプ。正式な名称で言えばM40 105㎜無反動砲であるが、RCVはともかくTKに効果があるかは怪しいなぁ、としか言いようがなかった
『しかし、師団長からの命令でもありますし』
『それも実際怪しい所だろうが。出処の怪しいフワフワした命令でてめぇの命(タマ)はって、せっせと道路復旧に汗流してた連中を撃つんだ。適当で良いんだよ適当で』
だが、その言葉とは裏腹にどう攻略したもんか、と頭を巡らせる。あっちのTKはイエローチャレンジャーとか呼ばれる代物で、名称はH型主力戦車(Si-Chi)。主砲は127㎜45口径のライフル戦車砲。よく伸びるし射程も長い、砲身は短めだがそのおかげで市街地での取り回しもしやすい。砲身の基部に射撃指揮装置があり、夜間等の戦闘でもその威力を発揮する。副武装には砲身同軸と対空用の機銃が2丁、RWSにはなっていないので、同軸はともかく1丁は無視できるか。それにスモークディスチャージャーがあり、装甲もチャレンジャーを考えるなら分厚いのが見込める。ただ、どうしても重いので初期加速については問題がありそうには感じる。防衛向きの面倒なTKだ
『おいお前ら、食い物食い終わったら距離取って空港に対して半包囲すんぞ』
『『うっす!』』
で、あるならばこちらは車間距離を広く取るべきだ。残りはRCVとよくわからんやつになるが、RCVもこっちのなんちゃって対戦車車輌よりはよっぽどまともに脅威だが、防御力はそう大したものではないから、戦闘を行う際は隠蔽を主にして咄嗟射撃で圧倒するやり口と思う。M2みたいに砲塔に対戦車ミサイルでもついてりゃまた違うだろうが、ありがたい事に今回はつけていなかった。なんなら、位置さえ分かれば隠蔽物を射撃し続けて釘付けに出来るわけだ
『予備のジェリ缶寄越せ、それじゃあ俺はちょいと敵情視察に行ってくらぁ。おい、各小隊長にはもし俺が撃たれたら撃てと伝えろ』
「隊長!?一体どうするんですか!?』
慌てたようにジェリ缶を渡しに来た副隊長が聞いてくる。話はいたってシンプルだ
『言ったまんまだぜ、タクシーなり自家用車なりを運転手を拾って敵情視察してくる。遮蔽に入ってるRCVなりの位置を掴むんだよ。場所は無線機で伝える』
『危険です!』
その言葉ににんまりと笑う、だから行くんだよ
『連中とは宣戦布告したわけでもなんでもねぇ。戦闘車両でもねぇ一般車両で近付くのをどうこうするのは、まともな相手ならありえねぇ。そしてこれまでのあいつらを遠巻きに俺らは見てただろうが』
そういって身も軽く、車を調達しにジェリ缶をもった部隊長は町へと姿を消していくと手際よくタクシーを運転手付きで確保して現れる。まぁ、ちょっくらそこまでのレベルでガソリンが手に入るなら当然か
『んじゃあ、ちょっくら戦車のところまで行って引き返してくる!』
危険に対して本当に軽やかに、部隊長は向かって行った
同刻、シーバート空港
<<竹虎より金獅子、市街より民間車輌。乗員は2名ッス>>
<<・・・スゥ・・・クゥ>>
空港に到着した金(キム)少佐率いる捜索中隊は夜襲に備え、空港に侵入出来ないよう射線を通しつつ展開してその時を待ったのであるが、その時は訪れず朝を迎えていた。夜通しの番をしていた金少佐は少し前に一旦仮眠に入った所だった。可愛らしい寝息が聞こえてくるが、仕方がない
<<朝ッス!朝っスよー!あーさー!あーさー!起きるっスー!!!>>
<<・・・・・・・・・・ガッ・・・・・・・・・金獅子、了解。確認した>>
何かにぶつかったような音のあと、普段の金(キム)少佐と比べると数段低い、不機嫌そうな声が聞こえてくる。朝が苦手だから事が終わるまで徹夜でやると言う彼女を無理矢理休ませたのが竹らだから、申し訳ない所であるが事態が事態だ
<<竹虎は周囲警戒を継続、車輌はこちらで対応する>>
オソルノ市街からシーバート空港へ繋がる215号線はなだらかに空港側に向かって勾配がついており、市街に対して高い位置にあるのに加え、戦脚は木立を盾に頭部分のセンサーだけを出す形で監視を行なっていた。残りの偵察警戒車は、二台が途中にあるレンタカーショップを遮蔽にして伏撃を行うべく待機、残りの一台は戦車を挟んで道路の山側に至る位置に距離をとって配置してあり、背後に回られないよう警戒に努めている
『こちらでってどうするつもりなんスかね?』
いきなり撃つ事はないだろうけれども、こっちは復興の為に出来そうな事で、チリ政府と事前協議したもの以外は治安維持にかかる部分での現行犯逮捕などの限定的な権限しか受けていない。なんなら、この戦脚で足止めして話を聞いた方が良かったかもしれない
ブロロロッ
そんな事を考えているうちに、タクシーが道路を過ぎ去っていく。金(キム)少佐はシチのハッチから上半身を出して、交通整理用に用意していた赤く光る警棒を振る。おいおい、IEDなりタクシーに仕掛けてたらどうするんスか。ROE(交戦規定)がろくに定まってない任務はろくな事になんねぇッス
<<ここより先シーバート空港については一時的に我々の管理下にあります。現在は飛行機便もなく、御用がお有りの方には申し訳ありませんが、市街に戻られてお待ちになられるか、ロス・ラゴス州行政府へお問い合わせください>>
いざという時のためにだろう。金は送信回線を開いたまま、用意したのであろうスペイン語の丁寧な案内をそつなく投げかけている。漏れ聞こえてくる反応に、美人!来たかいがあった!連絡先頂戴!なんてのが聞こえてくるんだが、なんなんッスかね。そして移動を開始する自動車音、その音は金(キム)の乗る戦車から遠ざかっており、本当に何をしに来た、というべきかこちらへと近づいてくる。だから
ピピッ
対砲レーダーが捉えた機械音に、少しだけ反応が遅れる。それは複数ではなく一発のみであるが、確かなそれ、誤探知ではない。瞳孔が開く
<<金獅子!ゴルフ場より発砲!少佐!>>
素早く探知した目標をリンクからシチへと送る。弾速はそんなに早くはない。射撃地点との距離を考えればいくらかの時間はある。早く車内へ!
ガァン!!
金(キム)少佐が中に入った刹那、主砲塔前盾に爆炎が走る。仮に車内であっても無事かどうかは別だ。あたり場所が悪ければどうなるか。竹から血の気が引く
<<少佐!>>
<<・・・こちら金獅子、本車健在!現在地より前進、応射する。武器使用自由、テェ!>>
BAM!
動き始めた鋼鉄の獅子が127㎜の火を放つ。その砲弾は自身を撃ってきた相手を捉え、跳ね飛ばす。長い砲身が宙に舞い、ジープに似た車体が断裂する。それに反応してか
ピピッ!ピピッ!ピピッ!ピピッ!
再びの発砲を探知。今度は4両から、そしてそれは金(キム)の乗るシチへではなく、金狛が隠蔽に利用しているレンタカーの建物へと放り込まれ爆発する。榴弾らしく、隠蔽そのものを破壊するつもりなのだ。発射位置をこの戦脚は対砲レーダーで捉え、各車へとデータを送る。シチは前進して再度発砲、隠蔽が露見した敵車両が消し飛ぶ。あちらに防御なんてものはない
<<金狛3!援護します!>>
包囲を避けるべく後方配置に居た金狛が前進したシチの後ろにつく、これで主砲射撃後の間隙を25㎜機関砲で埋めることが出来る。おそらくまだ発砲していない車両が居る。遮蔽を撃ったのはそこにいる金狛を行動させないためで、本命じゃない!
ふと、先ほど接近してきていたタクシーの事が目の端に映ったので、意識をそちらに持っていく。既に止まっていて、運転手が一目散に畑へ向けて逃げていっている。そしてもう一人は手にした無線機にがなり立てている。口の動きはしきりに同じ事を繰り返しており、戦脚に搭載された銃声の方向検知の為にある収音装置を向けると、確かにその男はこう言っていた
『撃ち方やめ!撃ち方やめ!どうして撃った!!!』
ヒューマンエラー!これはあちらにとっても求めての衝突ではないって事ッスか・・・!?それじゃあ・・・!
<<金狛3、金獅子より右稜線、掃射します!>>
<<竹虎より金狛3、射撃待て!>>
バババッ!
こちらが言うより一拍早く、曳光弾(トレーサー)を含んだ大口径銃弾の雨が稜線を薙ぐ。クソ、なんてこった!
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