第3話 初めて現実で
それでも彼女は心を強く持った。
獣医の夢は変わったけれど、ドッグサロンで働くという新しい道を見つけた。
見習いスタッフとして、土日だけのお給料でも、一生懸命、前に進み始めた。
そんな頃、彼女が二十歳を迎える節目が訪れた。
子どもから大人へ――そんな記念すべき時に、俺たちは決めた。
「会おう」
出会ってから、4年。スマホ越しではない、本当に「初めて会う日」がやってきた。
たまたま俺に名古屋への出張が入り、飯田からも出やすかったから、名古屋で待ち合わせることになった。
名古屋駅で初めて顔を合わせたあと、ふたりでラウンドワンへ向かった。
卓球をした。ローラーブレードも滑った。反射神経のゲームでは、彼女の素早さに太刀打ちできなかった。
その日、俺たちはようやく、現実の世界で笑い合うことができた。
それから約2ヶ月半が経ち、俺たちは初めてのお泊りデートでディズニーシーへ出かけた。
彼女は初めてのお酒を少しだけ口にした。
どこを回ったかは正直あまり覚えていない。それくらい、お互いに緊張していた。
でも、ホテルの夜――俺たちは初めて、ひとつになった。
次の日は彼女が飯田に帰る日。
二十歳の誕生日を記念して、
一緒に新宿を歩きながら、プレゼントを探した。
彼女の目に留まったのは、
淡いピンクの可愛らしい財布。
「これがいい!」
そう言って無邪気に笑ったその笑顔を、俺は今でも忘れない。
無念にも帰りのバスの時間が来てしまったけれど、また次のデートを約束して、俺はバスを見送った。
それから俺の誕生日を迎えるまでの間、何度もデートを重ねた。
俺は何度も飯田へ通い、
彼女も、何度も高速バスで東京へ来てくれた。
距離はあったけれど、心の距離は確実に近づいていた。
そして、俺の誕生日。
彼女とは名古屋で待ち合わせをして、
ふたりでレンタカーを借りて、蒲郡まで出かけた。
温泉付きの客室を予約してくれていて、
決してサプライズではなかったけれど、
少ないお給料を貯めて、プレゼントしてくれたことが何より嬉しかった。
その日は、水族館に行って、夜はふたりで温泉に浸かって、
次の日には、海辺をゆっくり散歩した。
ずっと、ずっと笑っていた。
とても幸せなデートだった。
あの頃の俺たちは、何も怖くなかった。
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