第8話 動き出す日常


朝、スマホの着信音で目を覚ました。


「……誰だよ、こんな朝っぱらから」


ディスプレイには、バイト先の店長からの名前。

嫌な予感しかしない。恐る恐る通話ボタンを押した。


「おはよう、今井くん! すまん、今日急にシフト入ってもらえないか? コンビニの棚が空っぽで、お客さん殺到してるんだ!」


ニュースでも見た。

ダンジョン騒ぎのせいで、世間はパニック気味だった。

乾麺、レトルト、トイレットペーパー。ありとあらゆるものが買い占められているらしい。


「わかりました、すぐ行きます」


二つ返事で答え、慌てて着替えた。

財布とスマホをポケットに突っ込み、外へ出る。

街は思ったより落ち着いていたが、スーパーの周辺だけは異様な活気があった。

店に到着すると、既にレジ前には長蛇の列。

押し寄せる客、棚から商品をかき集める音、怒号。


「こんなこと、震災以来だな……」


同僚が呟く。

俺はひたすらレジ打ちと品出しに奔走した。

──時間の感覚もなく、ただ必死に動いた。

気付けば、外は夕焼けに染まっていた。


「今井くん、もう上がっていいぞ!助かった!」


店長の声に、ようやく解放された。

体は重い。足も棒だ。

ふらふらと更衣室で私服に着替え、スマホを取り出す。


「……!」



GODストアの通知が来ていた。


慌てて確認する。


―――

【オークション終了】

商品:低級回復ポーション

落札価格:150G

―――


150G。


思っていたより高い。


(マジで売れた……)

自分が作ったポーションに、これだけの価値が付くとは。

驚きと、少しだけ誇らしい気持ちが湧いてきた。

これで俺も、少しはこの異常な世界で生きていけるかもしれない。


「……でも、浮かれてる場合じゃねえな」


財布の中身は心もとない。

今日もスーパーは大混雑だった。

食料の確保をしないと。

スーパーで、カップラーメンを数個とレトルトご飯を購入した。

どれも品薄で、選ぶ余地なんてなかった。


(明日から、ますます物が手に入りにくくなるかもしれない)


そんな不安を抱きながら、夜の街を早足で帰路につく。

ポケットにしまったスマホが、ずっしりと重たく感じた。

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