第2話 神の宣言と、人々のざわめき

世界は、突然の"神の宣言"によって揺れた。

 

──その存在は、どこからともなく現れた。

世界中のあらゆるディスプレイ、スクリーン、スピーカーから、均一な声が響き渡った。


【地球に住まうすべての者たちよ】

【本日をもって、地球に"ダンジョン"が出現する】

【これは祝福であり、試練である】

【全ての者に、祝福を】

 

その直後、世界各地の大地が光に包まれた。

巨大な柱のような光が、地面を貫き、空へと突き抜ける。

その中心には、異様な建造物――ダンジョンが姿を現した。

都市部、山岳地帯、森林、果ては海底までも。

大小さまざまなダンジョンが、無作為に"生成"された。

 

国連は、緊急会議を開いた。

だが、あまりに突発的で、前例のない事態に、誰も明確な指針を示せなかった。

「これは侵略行為ではないのか?」

「新たな自然災害と捉えるべきか?」

「宗教的意味合いを持つか?」

各国の代表たちが声を荒げ、互いに意見をぶつけ合う。

一方、国民たちは混乱した。

SNSでは、"神"の正体や、ダンジョンの正体について様々な憶測が飛び交った。


【宇宙人による実験だ】

【終末予言が現実になった】

【新世界の幕開けだ】

【人類への祝福だ】


真実は、誰にも分からなかった。

 

日本政府も迅速に動いた。

即座に緊急閣議を招集し、「全ダンジョンの封鎖」を決定。

自衛隊が出動し、ダンジョン周辺を完全封鎖。

一般人の立ち入りを禁止すると同時に、マスコミにも報道規制が敷かれた。

理由は単純だった。

──何が起きるか分からない。


だからこそ、迂闊な接触を避けるべきだ、という判断だった。

だが、それでも"隙間"は生じた。

封鎖が行き渡るまでのわずかな数時間。

全国各地で、好奇心に駆られた一般市民が、無断でダンジョンに侵入したのだ。

 

その中には、悲劇も含まれていた。

関東圏郊外に出現したダンジョンでは、地元の若者グループが中へ入った。

数時間後、全身血まみれで逃げ帰ってきた者もいれば、二度と戻らなかった者もいた。

生還者たちの証言は、震える声で断片的に語られた。

 

「中に……化け物がいた……!」

「スライム……みたいな、ドロドロの塊が、襲ってきた……」

「剣とか斧持った、小さいヤツらが……ゴブリンって、あれ、ゴブリンだろ……」

 

一部始終を捉えたスマホ映像もネット上に流出し、さらに騒ぎは拡大する。

手ブレの激しい動画には、暗く湿った通路と、青黒い粘液の塊が跳ね回る姿が映っていた。

──まさしく、ファンタジー作品で見たモンスターそのものだった。

 

日本中が震撼した。

「本物のモンスターが現れた」

「ファンタジーが現実になった」

「やっぱりこれは世界の終わりだ」

 

テレビ局も速報で繰り返し報じた。

──ただし、報道は慎重だった。

過度なパニックを防ぐため、詳細な映像は控えられ、政府の発表を待つという態度を崩さなかった。

一方、ネットは無法地帯と化した。

匿名掲示板やまとめサイトでは、真偽不明の情報が飛び交い、無数のスレッドが乱立していた。

【速報】○○県のダンジョンでガチモンスター発見wwwww

【画像あり】ダンジョン侵入したやつ帰ってきたぞwww

【怖すぎ】ダンジョンで行方不明者、早くも多数か?【未確認】

半信半疑ながらも、世間は確実に、「新たな世界の現実」を受け入れ始めていた。

 

翌朝。

各主要新聞の一面は、「ダンジョン出現」と「モンスター目撃情報」で埋め尽くされた。

「国家非常事態宣言」も検討されていると報じられたが、政府は今のところ慎重な姿勢を崩していない。

「秩序を保て」

「冷静な対応を」

「公式発表を待て」

官房長官の記者会見では、何度もそう繰り返された。

だが、国民の不安は、確実に膨れ上がっていく。

 

静かに、だが確実に。

世界は変わり始めていた。

 

だが、その渦中で。

誰も知らなかった。

ダンジョンと"ステータス"という新たな力を、すでに手にしている者たちが、

静かに目覚めつつあることを。

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