第11話 悪役令嬢と旦那様

その後、案の定ロベリア家から文句を言われたらしく(文句を言われる筋合いはないが)、お嬢様と私とストックは、旦那様の部屋へと呼び出された。


「アリウム、そしてアイビーにストック。今回の件で貴族の子息や令嬢に迷惑をかけた自覚はあるか?」

「いえ、ありません。迷惑をかけたのは、ダチュラ……様や聖女様の方でしょう?」

「あぁ、アイビーの言う通りです。自分らの主人が言いたい放題言われて、黙っているほうがおかしいでしょう?」

「ちょっ……!アイビー、ストック!」


私とストックが自分の思っていたことを素直に口にすると、お嬢様は焦った声を出す。


「なら……今回の件は、あくまで相手が悪いのであって、自分たちは悪くないと?」

「えぇ、そうです」

「あぁ。少なくとも俺ら二人はそう思っている」


私たち二人が当たり前のようにそう答えると、旦那様はお嬢様の方を向き、「アリウムはどうなんだ?」と問いかける。


「わ、私は……」


少しだけ悩むそぶりを見せたものの、お嬢様はまっすぐに旦那様を見て、言い放つ。


「少なくとも、私たちだけが悪いとは思えません。私たちが悪いというのであれば、ダチュラ様やカルミアさんも悪いと思います」


お嬢様の言葉を聞き終えると、旦那様はふぅ、とため息をつく。


「お前たちの気持ちはよくわかった……アリウム・ゼラニウム。お前は今回の件で沢山の人に迷惑をかけたのにもかかわらず、反省の色を見せない……そんな非常識な令嬢を、格式高いゼラニウム公爵家の令嬢であることはふさわしくない!!よって、お前をゼラニウム家から追放する!!」

「は」


はぁ~~!?


バカだろ、こいつ。

いや、母親を亡くした我が子を放っておいて愛人を作り、自分の娘が邪魔になったからって愛人に暗殺させるような奴を賢いだなんて思ってはなかったが、まさかここまで酷いとは。

気色悪い。しかも、こんなあたおかな発言をどや顔で言っているのが、より気持ち悪さに拍車をかけている。


「わかったのならば、アリウムは荷物をまとめ、この屋敷から出ていけ。そしてアイビーはこの屋敷にいる使用人全員に、アリウムを屋敷から追放することを伝え……」

「――なぜ、私が貴方に指図されなければいけないのですか?」


旦那様は勘違いしている。自分がこの屋敷の中では絶対で、自身の命令には全員従う、と。




「私は、お嬢様の専属メイドであって、旦那様の都合のいいメイドではありません」


私がそうきっぱりと言うと、旦那様は顔を真っ赤にさせながら、ストックに私と同じ命令をする。


「……わかりました」


旦那様の命令に、ストックは言葉少なげに返事をし、足早に旦那様の部屋から去った。


「これで邪魔者は居なくなる……!!」


邪魔者と言うのが、私のことかお嬢様のことかはわからない。でも、この人はかつて、気まぐれだったとしても私を救ってくれたんだと思うと、なんだか無性に悲しくなる。

何がこの人を変えたのかはわからない。それでも、この人がお嬢様の近くにいても、いい影響は絶対に与えない。そう思うと、かつて私を救ってくれたという情は、急速に溶けていったのだった。

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