第8話 悪役令嬢と舞踏会
「舞踏会ですか?」
「えぇ、そうよ」
お嬢様が学園主催の舞踏会の話をしたのは、学園に入学してから一年が経とうとしていた時だった。
「進級祝いに毎年開かれているらしくて、ぜひともあなたに参加してほしいの!」
「えっと……お嬢様の専属メイドとして、舞踏会には付いて行くつもりでしたが……」
「あ、そっか……それなら、アイビーも当日は、たまには着飾れば……」
「――その舞踏会はあくまでも生徒が主役。使用人である私が着飾るなんて、ありえません」
私がお嬢様に言い聞かせるようにそう言うと、お嬢様は「えぇ、つまらない」と文句を言うが、納得してくれているご様子。
「とにかく、当日は私を含め、ゼラニウム家のメイドたちが腕によりをかけて、お嬢様をお綺麗にして見せるので、楽しみにしていてくださいね?」
「――わかった。楽しみにしているわ」
それにしても、舞踏会……か。
二年後の舞踏会では、お嬢様はカルミアにしてきた数々の悪事をばらされ、断罪されてしまう。でも、このままいけばきっと、お嬢様が破滅することなんてありえないはず。
自身が安心できるよう、私は一人そう考え、軽い深呼吸をする。
そして、私は軽く頬を叩き、気合を入れて、まっすぐに前を見つめる。
私の瞳には、確かな希望が見えていた……気がする。
―――――
「つきましたよ、お嬢様」
「えぇ、ありがとう」
そして、舞踏会当日。
馬車が目的の場所についたため、私はお嬢様にそう声をかけ、馬車のドアを開けると、お嬢様はにっこりと私に笑いかけながら、ゆっくりと馬車から降りる。
その様子は可憐で、見るものすべての視線を奪う(個人の感想です)。
「それでは、お嬢様。エスコートはこの俺が……って、冗談だから!!そんな顔でこっちを睨むな、アイビー!!」
私と同じく、護衛としてお嬢様についてきたストック(ストックは執事だが、お嬢様を守れる程度には強い)がお嬢様にそんなことを言うので、私は軽く睨みつけたつもりだったが、すごい形相になってしまっていたらしい。
「とにかく、早速向かいましょうか、二人とも」
笑いながらそういうお嬢様の言葉に、私たちは声をそろえて「「はい!!」」と返事をしたのであった。
―――――
「お嬢様、足元にお気を付けください」
「えぇ、分かっているわ」
私は普段と何ら変わらないメイド服だが、お嬢様はいつもよりも少し派手なドレスに、多くの装飾品。いつもお綺麗だが、今日は一段と綺麗なお嬢様が、少しの段差でもこけてしまう気がして、私はいちいち過保護に声をかけてしまうが、お嬢様は私の言葉を笑って受け止める。
それにしても、さすがお嬢様と言うべきか、会場にいる皆さんからの視線を集めている。
「おい、アイビー。お前、すげー見られてるけど……」
「は?皆さんが見ているのは、麗しいお嬢様のことでしょ?」
「いや、まぁそれもあるんだろうが……ほら、お前には、物騒な噂があるじゃないか」
「物騒な噂?」
ストックの言う物騒な噂について、私は全く心当たりがない。
私が眉をひそめながら、ストックの言葉の真意をはかりかねていると……
「アイビー、ストック!!ちょっとこっちに来てみてよ!!すごいわ、見たことのないお料理ばかりよ!!!」
お嬢様のはしゃいだ声が少し遠くから聞こえ、私たちは、「今そちらに向かいます!」と言いながら、足早にお嬢のもとへと向かった。
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