第5話 専属メイドと新米メイド

それから6年後。

お嬢様が11歳、私が24歳の時、私は新米メイドである、ローリエの教育係となった。


ゼラニウム家に来てはや18年。私もかなり上澄みの方になり、お嬢様の専属メイドとともに、新米の教育係を任せられたことを嬉しく思う。

ちなみに、お嬢様は私以外のメイドに、自身の専属メイドを任せることはなかった。

そんなお嬢様を、私は不思議に思ったが、それだけ信用されているんだと思うと、私は世界一幸せ者なんだと思ってしまう。

ちなみに、6年経っても、お嬢様と私とストックの関係は変わらない。


「それでは、今日はお嬢様のお好みになる食事について説明します」

「はい!!」


現在、朝5時。お嬢様が目を覚ます前に、食事の準備を済ませなくてはならず、朝からメイドは忙しい。ただ、私はメイドの仕事を苦に思ったことはない。大好きなお嬢様のために働けるのであれば、本望だ。


「お嬢様は、質素なお料理の方が好まれますが、それでは旦那様に文句を言われてしまいます。なので、適度に旦那様に文句を言われないように、できるだけお嬢様好みに作ってください」

「……それ、結構難しいのでは?」

「なれれば楽なものですよ、この程度は」


そう言って、私は食材を取り出し、ローリエに指示を飛ばす。


「では、まずはこれを炒めて……次に、これを味付けする。この時、できるだけ薄味にして、食材本来の味を引き立たせる」

「えっと……これはどうすれば?」

「先ほど説明のと同じタイミングで炒めればよいです」

「あぁ、なるほど……」


そんなこんなで、お嬢様を起こす前になんとか料理を完成させ、私たちはお嬢様の部屋へと向かった。


―――――


ローリエの担当は私なので、必然とお嬢様の近くにいることとなる。なるのだが……


「きゃっ……!!」


ローリエは、かなりドジである。

何もないところでよく転ぶ。洗濯物を運ぶと、必ずと言っていいほど転び、洗濯物をまき散らす。手は不器用で、針仕事にも向いておらず、皿も、ゼラニウム家に来てから何度、割ったことか……


それでも、お嬢様は「誰にだって、始めはできないことが沢山ある。少しずつ、できるようになっていこう」と、怒りなんて微塵もない様子で励ます。


何故、ローリエが公爵家であるゼラニウム家に仕えることができたのか不思議で仕方がないが、私はお嬢様やメイド長の命令通り、ローリエにできる限り優しく、メイドの仕事を教える。


「――それでは、今日はこの辺で終わりにしましょうか?」

「はい!今日も一日、ありがとうございました!……ところで、アイビー様。一つ確認したいことがあるのですが……」

「はい?どうしたのですか?」

「アイビー様は……明日、非番と聞いたのですが、本当ですか?」

「?えぇ、そうよ。ただ、必要最低限のお嬢様のお世話はするつもりだけれど……」


いつもはきはきとしゃべるローリエが、今日はやけに歯切れ悪くそんなことを聞いてくるため、私は不思議に思いながらそう答える。


「そ、それなら!!明日の朝食は、私に任せていただけないでしょうか!!」


やけに焦ったようにそう言うローリエの様子に、私は胸騒ぎを覚えながら、「えぇ、いいわよ」と答える。……もちろん、お嬢様が口にするものを新米一人に任せるわけにはいかないし、陰から見守るつもりだけれども。

私の心の中で付け加えた言葉には気づくはずもなく、ローリエはやったと、不自然にはしゃいでいた。


――やはり、怪しい


私は不審に思いながらも、表面上はにこやかな笑みを浮かべながら、彼女を見つめるのであった。

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