第6話 おはようございます、お嬢様

翌朝、厨房前にて。

私は、目に魔力を込め、透視能力を発動させた。

魔力が高いほど、魔法で大抵のことができるようになるため、私の規格外チート能力は、普段あまり使うことはないが、案外便利である。


そんなことを考えていると、ローリエはお嬢様の朝食を完成させる。


――このまま、何も起こらなければいい。


私のそんな願いを打ち砕くかの如く、ローリエはメイド服のポケットから、毒薬のようなものを取り出し、スープに毒薬のようなものを入れようとした。


「――待ちなさい!!」

「!?」


私は、いてもたってもいられなくなり、厨房のドアを勢いよく開け、ドアの近くにいたローリエの手首をつかみ、持っていた毒薬(推定)を取り上げる。


彼女が手に持っていたものは、カンタレラ――毒薬であった。


「どうしてお嬢様の召し上がるものにに、こんなものを盛ろうとした?」


私は、いつもよりも声のトーンを落として、ローリエにそう問うが、ローリエは顔を真っ青にしながらも、口は決して開こうとしない。


「そうだよな……旦那様が怖いのだろうな、お前は」

「どう、して……あなたが、それを……!!」

「私たちが旦那様が企んでいることに、気が付いていないとでも?」


私がそう言いながら、ローリエを睨みつけると、ローリエはひゅっと喉を鳴らす。


「貴様は旦那様の愛人なのだろう?旦那様と貴様は共に暮らしたいと欲深く願っていた。しかし、貴様のもとで旦那様が暮らすとしても、貴様が旦那様のもとで暮らすとしても、お嬢様は邪魔でしかない……お前らは、それならばいっそ、お嬢様を殺そうとした……貴様が新米メイドとしてお嬢様に近づいて、な」

「……」

「そして、お嬢様の暗殺は、貴様らだけではなく、メイド長もかかわっている……違うか?」

「……」


私がどんなに質問しても答えないローリエに、さすがにしびれを切らし、私は、ローリエの手首をつかむ手の力を強める。すると、ローリエは簡単に音を上げ、「はい、アイビー様の言う通りです」と白状する。


「だから、お願い……許して……!!」

「なにが、なのかしら?」


私はそう言いながらにっこりと笑う。すると、ローリエはさらに怖がってしまい、どんどん顔が真っ青になっていく。


「許して、許してください……!!」


いまだ、私に意味のない命乞いをするローリエに呆れ、ため息をつきながら、私は極めて冷酷に彼女に言い放つ。


「なにを言っているんだ?貴様は、お嬢様のことを、有無を言わさずに殺そうとしたじゃないか。そんな貴様が許しを請うとは……都合がよすぎるのではないか?」


そう言って、私はいまだに許しを請い続ける彼女の口に、彼女がお嬢様のお召しに上がるものに盛ろうとした毒を入れる。そして、吐き出さないように、彼女の口を塞ぐと、くぐもった醜い声がしばらく私の耳に届いたが、そんな最後の抵抗の声もどんどん小さくなっていき、やがて……彼女の醜い声は聞こえなくなり、体の熱も、消えていた。


―――――


「――おはようございます、お嬢様」

「……おはよう、アイビー……あれ?ローリエは?」


私がいつものように、お嬢様にそう声をかけ起こすと、お嬢様は眠たそうに眼をこすりながら、昨日までいたはずのメイドの名を出す。


「……残念ながらローリエは、昨日の夜、不幸にも階段を踏み外し、体の骨を折ってしまいました」

「えぇ!!それって、大丈夫なの!?」

「はい。不幸中の幸いと言うべきか、命に別状はございませんでした。しかし、今後のメイド活動は難しいらしく、昨日付でゼラニウム家のメイドを辞めてしまいました」

「……そう、それは残念ね……それでも、命は助かったのならよかったわ。……ねぇ、アイビー。また、ローリエと会える時が来るかしら……?」

「えぇ……生きていれば、必ず」

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