おはようございます、お嬢様 ~悪役令嬢の転生専属メイドは、裏切り者を許さない~
夜桜 舞
第1話 転生メイドとお嬢様
私が旦那様と奥様に拾われたのは、はるか昔……私が6歳の時であり、お嬢様が生まれる、7年前のことであった。孤児である私がゼラニウム公爵家に拾われたのは、旦那様のほんの気まぐれ。それでも、死にかけていた私を救ってくれたことは、数年経った今でも感謝している。
さて、突然だが、私には前世の記憶がある。
私がゼラニウム家のメイドとして働かせていただいてから7年後。
旦那様と奥様のに、一人の可愛らしい女の子が誕生した。
……それが、お嬢様であった。
お嬢様につけられたお名前は、アリウム。アリウムというお名前とお嬢様のお顔を、私は知らないはずなのに知っている気がして、それは忘れてはいけない何かな気がして、私はそれが何なのか必死に思い出そうと記憶を呼び起こした。すると、私は一つの単語を思い出した。
――悪役令嬢
聞きなれない単語。それでも私は、悪役令嬢という言葉を知っている気がして、必死に記憶をたどり、私は芋づる式に、乙女ゲーム、日本という言葉を思い出し、ついには、全てとはいかないが、私は前世の記憶を思い出したのだ。
私の前世は、日本という国で、私はどこにでもいる普通のOLをやっていた。
前世の私は大のゲーム好きで、色々なジャンルのゲームをやっており、そんなゲームの中でも特に「恋する騎士と7人の騎士」通称「恋騎士」は、学園物の乙女ゲームであり、私が前世で一番はまったゲームであった。
そして、お嬢様――アリウム・ゼラニウムは、恋騎士の攻略対象の一人、「ダチュラ・ロベリア」の婚約者であり、ヒロインの恋路を邪魔する、いわば悪役令嬢。そんなアリウムは、ゲームの終盤でヒロインにしてきた数々の嫌がらせがばれてしまい、色々な人々に裏切られながら、破滅の運命をたどる。
そんな運命を背負うアリウムだが、私は恋騎士プレイ中はあまり悪役令嬢である彼女を好きにはなれなかった。故に、主人が悪役令嬢だなんて嫌なので、逃げちまおうかと考えたこともあった。しかし、実際にお嬢様の愛らしいお姿を見てみると、あぁ、お嬢様も一人の人間なんだと思い、私はこんな可愛らしいお嬢様をお守りしたいと強く思うようになった。……というのは、少々勝手が過ぎる気もするが。
何はともあれ、私はゼラニウム家のメイドとして、お嬢様を守らなければいけない。しかし、公爵家であるゼラニウム家には、メイドや執事などの使用人はたくさんいるので、孤児である私はお嬢様とかかわることはあまりない。故に、私はお嬢様のことを陰ながらお守りしようと、そう思っていたのだが……
「私が……お嬢様の専属メイドですか……?」
お嬢様が5歳の誕生日を迎えてしばらくたった後、私は旦那様に、お嬢様の専属メイドとなることを命令された。
「あぁ、そうだ。君には我々以上に魔力がある。そんな君がアリウムの近くにいれば、私もアリウムも安心だ」
この世界には、魔法が普通に存在している。そして、魔力は魔法を出すのに必要な力であり、魔力が高いければ高いほど、高威力な魔法が出せるのだ。
そしてこの国は、魔力があればあるほど出世しやすいと言われており、実際、旦那様含め、この国の上級貴族は皆、魔法のエキスパートである。そんな世界で、私は転生者ゆえか、チート級の魔力がある。そのため、私をお嬢様の近くに置けば、お嬢様にもしものことがあったら瞬時に守れると判断したのだろう。
「しかし……孤児である私がお嬢様の近くに侍るだなんて……不満の声も上がるのでは?」
「なにを言っているんだ。君は10年ものの間、このゼラニウム家に仕えてくれていたのだ。その間、君は他のメイドが嫌がる仕事でも、率先してやってくれていた……そんな君が我が愛娘、アリウムの専属メイドになることに、不満の声なんて上げさせないよ」
そう言ってニッコリと微笑む旦那様。正直、大好きなお嬢様の専属メイドになれるだなんて断る理由もないため、私は喜んで引き受けることにした。
―――――
「――失礼します、お嬢様」
私はその後、旦那様にお嬢様に挨拶するよう言われ、私はお嬢様のお部屋へと来た。
「……あなたは、だれ?」
5歳であるはずのお嬢様はひどく大人びている。
「今日からお嬢様の専属メイドを務めさせていただくことになりました。今日からよろしくお願いします」
私がそう挨拶すると、お嬢様は、「そう……それで、あなたの名前は?」と聞いてきたため、私は少々悩みながら口を開く。
「孤児である私に、名前などございません……他のメイドからはアイビー、と呼ばれていましたが……」
「そう……それじゃあ、あなたは今日から正式にアイビー。よろしく」
「……!!あ、ありがとうございます……!!」
元から呼ばれていた名前とはいえ、お嬢様からお名前をいただいてしまった!!
「それではお嬢様、私にできることでしたら、何なりとお申し付けくださ……」
「――ない。だから、出て行って」
きっぱりと私を拒絶する言葉。その言葉に、私はどうしたものかと思考する。
お嬢様がこういう方なのはわかっていた。ゲームでもお嬢様は他人を拒絶し、いつも一人でいたからだ。そして……お嬢様は何かにひどく怯えている。それが何なのか、私は知りたい。
「しかし、私はお嬢様の専属メイドです。誰よりもお嬢様のお近くにいるのが、私の仕事です」
私がきっぱりとお嬢様のご命令を断ると、お嬢様は「はぁ……」と、重たいため息をつきながら、私を品定めするかのように、私をじっと見つめ、しばらくそれを続けた後、口を開く。
「それじゃあ……あなたは、お母様をお呼びできるの?」
お嬢様のそんな質問に、私は言葉を詰まらせる。
お母様――奥様は、お嬢様が4歳の時に、お亡くなりになられた。奥様が一番信用していた奥様の専属メイドが裏切り、奥様の召し上がるものに毒を盛ったのが原因である。おそらく、お嬢様が人を拒絶するのはこのことが原因なのだろうが、これはあくまで私の憶測。お嬢様のことを、私は勝手に決めつけたくはない。だからこそ、私はお嬢様のことをもっと知りたいのだ。
「……できないのなら、早く出て行って……私は、お母様以外、いらない」
私は、いったんここはお嬢様の命に従うことにし、お嬢様の部屋を後にする。
それでも、私はあきらめない。私は必ず、お嬢様の心を開き、お嬢様のことを守らねばならないのだ。
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