次元空間でレベルアップ

 朝になった。


 窓の外を見れば、灰色の雲が空を覆い、静かに雨が降っていた。

 昨夜のあの賑やかで温かい空気が、嘘のように感じられる。


「……マジか、雨かよ」


 港町ルセアの朝は、潮の匂いと雨音が混ざった、少し寂しげな空気に包まれていた。


 荷物の整理をしながら、俺は小さくため息をついた。

 出航予定だったけど、こりゃ……出られねぇかもな。


「……おい、ミチオ。起きろ、外見てみろよ」


「ん……何時だ……って、うわ、マジで雨か」


 ミチオを起こして窓を開けると、じとじとと雨が降り続ける港の景色が広がっていた。

 まるで昨日のにぎやかな夜が嘘みたいだ。


 いつの間にか俺の頭の上に乗ってたハクマルが、耳をピクピク動かしながら外をじっと見ている。

 お前、雨とか平気なんか?


 ミチオと一緒に部屋を出ると、ちょうど隣の部屋から出てきたリンとミュウと鉢合わせた。


 ミュウは窓際に張り付いて、しょんぼりした顔で外を見ている。


「ねえ、リンおねえちゃん……この雨、いつ止むの?」


「うーん……分からないけど、今日の出航は難しそうだね」


「ええ〜……乗りたかったのに、船……」


 シュンとするミュウの横で、俺は苦笑いしながら肩をすくめた。


「まあまあ、天気ばっかはどうにもならんからな。とりあえず、朝飯食いに行こうぜ」


 下の食堂スペースに降りると、いつも通り親切そうなスタッフが朝食を運んでくれていた。


「おはようございます。今日はあいにくの雨ですね。

 こんな天気だと波も高くて、漁師さんたちもみんなお休みですよ」


「やっぱりか……」


 俺たちはテーブルにつき、それぞれ簡単な朝食を前にして静かに頷いた。


「ま、こういう日もあるさ。今日はゆっくりして、街の中でも調べるか、何か情報収集でもするか……な」


 リンが頷き、ミチオはパンをかじりながら「外に出るならカッパが欲しいな」とぼやいた。


 ミュウはまだちょっとがっかりしてるみたいだけど、ハクマルが膝の上に乗ってきてゴロゴロ喉を鳴らすと、自然と笑顔が戻ってきた。


 朝食を食べ終えた俺たちは、そのまま食堂の席でのんびりとくつろいでいた。

 ハクマルはテーブルの下でミュウとじゃれ合いながら、ご機嫌な様子で尻尾をふりふり。


「ふふっ、ハクマル、なんか今日テンション高いねぇ〜」

「……もしかして、天気のせいかもな。動物って、気圧とか湿気に敏感って言うし」


 リンとそんな会話をしてると、彼女がふと思い出したように言った。


「そういえば……この辺り、最近ちょっと変な噂があるんだよね」


「噂?」


「うん。漁師さんが言ってたの。ここ数日、潮の流れが乱れてて……それだけならまだしも、海の底から“歌声”が聞こえるとか、船が原因不明で消えたとか……」


「おいおい、また物騒な話だな……」


「まるで、海の魔物が目を覚ましたみたいだよね」


 そう言うリンの表情は冗談半分、でもどこか本気にも見えた。


 俺はとりあえずその話を心に留めつつ、【システム】を開いて、自分の現在のステータスを確認する。


「……ふむ、そういやこのスキル、まだちゃんと使ってなかったな」


【創造の巨像(コロッサス・クリエイション)】――素材を使って巨大なゴーレムを作る能力。

 前に試したのは森だったけど、今ここでやったら……いや、さすがに宿が壊れるな。


「ちょっと、トイレ行ってくるわ」


 俺は軽くそう言って席を立ち、スタッフの目を避けるように人気のない廊下の先へ向かう。

 トイレの横、掃除用具が置いてある物置の近くで周囲を確認してから、【システム】を使って次元空間を開いた。


 白一色の、無限に広がる俺だけの空間。

 ここならいくら暴れても誰にも迷惑かからない。


「よし、まずは……」


【ストーンウォール】を複数展開し、石と土の塊を大量に生成。

 それを【創造の巨像】で次々とゴーレムに変えていく。

 数体、十体、二十体……やがて戦場のような光景に。


「さて、こいつらを倒すとどうなるかな」


 俺は一人で土のゴーレム軍団を相手に、暴れた。

 こっちが作った以上、弱点も構造も全部分かってる。

 実験というより、もはやストレス解消だ。


 そして、最後の一体を砕いた瞬間——


【レベルが上がりました】

【現在のレベル:42】


「おおっ……! マジかよ……」


 思わず声が漏れる。

 EXPの自動配分で、特に何もしてなくてもどんどん上がっていくのが楽すぎる。


(……これ、訓練用にちょうどいいかもな)


 ミチオやリンの鍛錬、そして……あの時まだ何もプレゼントしてなかったミュウにも。

 俺はニヤッと笑ってから、次元空間を閉じ、元の宿に戻った。


「ただいまー……っと、なあみんな、聞いてくれ。

 俺たち、もっと早くレベル上げしたくないか?」


「……お前、また何か企んでるだろ?」


「ふふっ、けいいちがそう言うときはだいたい変なこと思いついてるのよね」


「なになにー? なにするのー?」とミュウが目を輝かせる。


 俺はにやりと笑った。

 今日の雨、意外と悪くないかもしれないな。

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