オリンドールの真実

 朝日が地平線の向こうから昇り、金色の光を砂の海に注いでいた。

 俺たちは簡単な朝食を終え、焚き火を消し、出発の準備を整えた。

 目的地は東にあるオアシスの町。そこには、大地の竜について何かを知っている老人がいるという。

 朝早くに出発したはずなのに、灼熱の砂漠は容赦なく肌を焼き、吹く風は熱と砂を運んでくる。呼吸さえ重たく感じるほどだった。

 リンは布で顔を覆いながら、俺の後ろでふらふらと歩いていた。


「この砂漠…熱すぎるだろ…」

 ミチオが目を細め、太陽の光を避けるようにして言った。


「太陽が真上に来る前に着かないとな」

 俺は頷きながら答える。


 ミチオが辺りを見回し、低く呟いた。

「……静かすぎる。モンスターの気配もないし、風の音さえもしねぇ」


 確かにおかしかった。小さな砂嵐すら起きず、すべてが死んだように静まり返っていた。


「……何かが来る」

 俺は背中の魔眼の剣に手をかけた。


 その瞬間、空が黒く染まり始めた。まるで墨を垂らしたように。


「……バリア……?」

 リンの声が震える。


 空には漆黒のドームが形成され、全方位から光を遮っていた。


 ミチオがマナを練ろうとして、苦痛に顔を歪めた。

「くそっ……マナが流れねぇ!?」


 俺もスキルウィンドウを開いて確認する。すべての魔法系スキルが「使用不可」に変わっていた。


「……これは反魔法バリア……それに、MPも吸われてる…」

 空気が重く、肌にまとわりつくようだった。


 リンが膝をついて呻く。

「体が……重い…」


 ミチオが歯を食いしばる。

「ちくしょう、何もできねぇ…!」


 ――だが、俺は違った。

 魔法に依存しないスキルはまだ使える。俺のステータスは一切影響を受けていなかった。


 それは、俺の力が「魔法」ではなく、「システム」に直結しているから。

 規格外の存在。俺だけは、例外だった。


「大丈夫。俺はまだ戦える」

 俺はそう言って魔眼の剣をしっかりと握り直した。


 ――その時だった。


 砂を踏みしめる足音が、静寂を切り裂くように響く。

 砂の向こうから、ゆっくりと一人の男が現れた。

 ボロボロの紺色のローブをまとい、大きな剣を背負っている。


 目が合った瞬間、俺の背筋が凍った。

 あの目を、俺は決して忘れない。


「やあ、けいいち」


 無表情で、それでいて殺意に満ちた声だった。


「……ガーラン・ウルフハルト」

 無意識のうちに、その名を口にしていた。


 ギルドに入ったばかりの俺を最初に試した男。

 その目は鋭く、どこか底知れない何かを秘めていた。


「知り合いなの?」

 リンが小声で尋ねてきた。


「ギルドの試験で俺を試した男だ。普通の教官だと思ってたけど…」


 ガーランが鼻で笑う。

「ただの教官だと?甘いな」


「俺は最初から、お前を監視していた。――そして、いずれ殺すつもりだった」


 ミチオが怒鳴る。

「どういう意味だよ!?なんでけいいちを狙う!?」


 ガーランは静かに答えた。

「オリンドール村を覚えているか?」


 リンが顔を青ざめさせる。

「あそこって……偽の依頼で行った村……まさか!?」


「その通り。依頼も、情報も、すべて俺が仕組んだ」


「ティオ、ミラ、キール……あいつらを殺したのも……お前か…?」

 俺の声が怒りで震える。


 ガーランは肩をすくめて言った。

「ただの捨て駒だ。罠に引っかかって死んだだけさ」


「……絶対に許さない」

 怒りが爆発し、俺のスキル《ダークフレイム》が自動的に発動する。


 ガーランの体からも、黒いオーラが立ち上り、空気を震わせる。


「さあ、けいいち。ここで全てを終わらせよう」

 そう言って、彼は背中の剣を引き抜いた。


 ――それは、魂を喰らう呪われた剣。人の命で成長する邪剣だった。


「その剣……初めて会ったときは、そんなの持ってなかったはず…」

 俺は低く尋ねる。


「オリンドールの村で死んだ連中の魂を、この剣が喰ったのさ。俺が、全部殺してやった」

 ガーランは楽しそうに笑いながら剣を見つめた。


 リンは顔を覆い、ミチオは歯を食いしばる。

「この野郎…!」


 魔眼の剣が濃い青黒いオーラを発し、俺の手と一体化するように輝き始めた。

 柄の近くにある眼が、ぐるぐると回転する。


『殺せ、けいいち。こんなクズ、生きる価値もない』

 リリスの声が頭に響く。


「言われなくても分かってる」

 俺は静かに答え、構えを取った。


「この戦い……絶対に逃げない」

 俺は心の中でそう誓った。


 灼熱の風が止まり、世界から音が消えた。

 ただ俺とガーランが、黒いバリアの中で向かい合っている。


 無言のまま、お互いに一歩踏み出す。


「覚悟しろ、けいいち。これが……俺たちの運命の決着だ」

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