第18話 真実と深層

悠「甘い……こんな物ばかり摂取していたら身体が病気になりそう……やめた方がいいよ」


誉「ああ?余計なお節介だってんの!それに……」


悠「それに?」


誉「俺はもう手遅れなんだよ」


悠「どういうこと?」


誉「んな話よりテメェの話をしろってんだよ!」


悠「……そうだね。さっきも言ったけど、キミたちは勘違いをしてるんだ」


誉「何をさ」


悠「僕は……男だ」


誉「あっそ」


悠「信じてないだろ!」


何を信じろってんの?

確かに声は低めだけど?

鼻で笑った。

そんなことを言いにわざわざ俺の家まで来たってわけ?


誉「男なら、なんであんな……女装が趣味なの?とんだ変態野郎だな」


介「誉……何か理由がありそうだぞ」


悠蔵が一呼吸置いて、


悠「変態だと罵られても仕方ない。でもアレは僕の意志じゃない……全部、母さんが…………」


誉「母さん?」


悠「そう。僕の母親。キミたちも見ただろ……着物の…………母さんは僕を女の子として育てたかったんだ。娘が欲しかったから。身の回りのものは全て女の子が扱うような物ばかり、服も、化粧品も、ぬいぐるみ、リボン……制服だって」


誉「その学ランはなんなんだよ」


悠「これは僕のはじめての……反抗なんだ。中学校に上がるまでは僕自身本当に女の子だと思っていたから、でも身体はどんどん男性に近づいていて……声変わりもするし、あはは……性欲だってあるんだよ……そのズレが僕を地獄に突き落とした」


あまりに深刻な顔で話を進めるから、俺も下手なことを言えなくて黙って聞いていた。


悠「中学校生活は良いものでは無かったよ。スカートを履いて、周りと違う。気持ちの悪い女装男子……。からかう人間だっていた。僕はだんだん学校に行けなくなって、学年が上がる前に不登校になった……。部屋から一歩も出たくなくて、周囲の目が、声が怖くて……母さんも怖くて。でもそれでも、母さんの暴走は止まらなかった。僕がどんなに辛く嘆いても、その声は届かなかった。今もね」


悠蔵の目が少し涙ぐむ。そして、情けないような恥ずかしいような表情をした。


誉「べ!別に、俺らしか見てねぇし……男同士なんだから」


悠「男……同士…………。僕の指の絆創膏、気になっていたよね」


悠蔵が指の絆創膏を一枚一枚剥がしていく。


そこには、痛々しい跡があった。

爪がひん剥かれていて、

見るにも耐えなかった。


悠「僕ね、爪を噛むのが癖になっていたみたいで……このザマだよ。汚いでしょ……誉くんが汚いって言うのも正解だよ。それと、長袖は…………」


悠蔵が左腕を差し出して、裾のボタンを外した。


悠「情けないよね」


誉「お前……」


鋭い刃物で何重にも切られた傷跡。

リストカット……


悠「父さんに頼んだんだ。僕はこのままだと自分の性別があやふやになってしまう……性別どころじゃない、意思も、何もかも……分からなくなってしまう。だから、高校は学ランのある学校が良いって……男として生きたいって、過去は過去として考えるようにした……でも余り上手くはいかなかったけど」


誉「でもお前の母親は……」


悠「ああ、当然反対だったよ。だからね、あの人のいない道で……その先の車まで行って、そのまま着替えてたんだ」


鞄をひっぺがえした。

中には女性物の下着やスカーフ……化粧品…………そしてうちの高校のセーラー服……床一面に広がった。


悠「母さんには逆らえない。なら欺くしかないと思ってね……誉くんにそれともって……見てたの?って聞いたのは、こういうこと」


誉「…………」


悠「トイレ、覚えてる?誉くんが僕の後を付けて……あそこに居たのは、僕が一人になりたかっただけ……精神統一っていうの?静かにしていたかっただよ。疚しいことは何も無い。……普段は知ってるだろ?周りに人がたくさん居て、家でも学校でも、常に……僕は望んでいないのに」


誉「ブツブツ言ってた計画ってそういう……」

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