第3話 付き合ってくれ
「それで?何が言いたいんだよ」
少し強めの口調で言うと、彩虹は無表情で先ほど俺が使っていたビーカーを片付けながら口を開いた。
「つまり私が言いたいのは、君のことを一目惚れしたということだよ」
「へえ〜。……は?」
俺が素っ頓狂な声を上げたと同時に、自分の胸あたりに衝撃が走る。彩虹が俺の胸に飛び込む形で抱きついてきたのだ。
「ちょっ!何やってるんだよ!」
「先ほども言ったはずだよ。鼓動を聞くにあたって、静寂は良条件であると」
そう言われて従順に口を噤む。それをいいことに彩虹は俺の胸にピトッと耳をくっ付けた。
「……ふむ。心拍数は少し速くなっているね。接触によるものかな」
「そりゃあ美少女にくっ付かれればドキドキするだろ」
「……私はしないけど」
「男の話だよ!」
何ともコミュニケーションが繋がらないなと思っていると、彩虹は「冗談だよ」と微笑しながら俺の胸元から離れる。その際に掠めた薄茶色の髪が少しくすぐったかった。
というか、彼女の瞳も改めて見ると非常に綺麗だ。瑠璃色の瞳はまるで宝石のようで、見る人を魅了する引力がある。
俺の視線に気付いたのか、無表情に自身の瞳に指差す彩虹。
「私の瞳、綺麗だろう?母譲りの目でね。私も気に入っているよ」
「へえ。母親は外人なのか?」
「いや?純日本人だよ。母は目が生まれつき瑠璃色の瞳をしていたと祖母から聞いている」
「それはそれで凄い気がする……」
「まあ、他の人が持っていないモノを持っているというのは誇らしいことだよ。……それよりも、だ」
彩虹は誇らしげな表情で椅子に座り、自分の髪をクルクル指でいじり出す。顔は赤くなり、少し恥ずかしそうにも見えてくる。
なんだ?どうしたんだ?
「えっと、一応私は『君に一目惚れをした』と言った。告白をしたんだ。それに応えてはくれないかな?」
「さっきまでハキハキと喋ってたのに、急にしおらしくなるんじゃねえよ。可愛く見えちゃうから」
「……ふむ。じゃあはっきり言った方がいいかな」
「え?」
彩虹は姿勢を正し、俺の方に向き直る。
改めて正面から見ると、とても端正な顔立ちだ。薄茶色の髪は絹の糸のようにしなやかそうで、瑠璃色の瞳は宝石を思わせるほど綺麗だ。乳白色の肌は触れば傷つけてしまうのではないかと思うほどに繊細。しかし、その小柄な身体からは想像もできないほどに行動一つ一つがハッキリとしている。
彼女の全てがその容姿に表れているようで見惚れていると、彩虹は静かにその言葉を発した。
「私と、付き合ってほしい」
その言葉は、確かに俺の人生という物語の歯車を動かして、そして──。
「……俺も、お前と付き合ってみたい。恋人になってみたい」
自然とその欲求が出てきて、言葉ですら勝手に口から出てきていた。
いや、そもそも彼女と出会って、興味を持ってしまった時点で既に惚れていたのかも。
俺の言葉に彩虹は無表情な顔を崩してフッと笑う。
「そうか。なら……」
彼女はスッと手を俺に差し出す。
その小さな手はどこか安心させるような包容力を感じられ、そっとその手を握った。
「なら、これからよろしく頼むよ。水原希夢」
「ああ、よろしく。冴木彩虹」
こうして、俺らの物語は始まった。
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