第9話
午後0時30分
「二人とも夜は部屋から出てないって」
帰って来た湊は、僕たちにそう結果を報告していた。
「対面で聞けた?」
「いや、ドアを開けないでそこでやり取りした。でも二人とも今恵梨香の部屋に居たから、口裏を合わせてるかもしれない」
湊はいろいろな可能性を考えているのだろう。しかし、口裏を合わせられていたとしても、そうでなかったとしても、あの二人のどちらかが犯人の可能性が高いため、回答は変わっていなかっただろう。
「おい、恒星」
僕がそう結論付けたその時、小声で湊が僕を呼びながら手招きしている。僕は湊に寄り、耳を近づける。
「なんかあったのか?」
どうやら僕と由佳の雰囲気を見て何かを感じ取ったらしい。
「いやまあ、ちょっとね。でももう大丈夫だと思うよ」
「なーに、秘密の会話してるの?」
僕たちの様子を見た由佳何も知らない様子で聞いてきた。僕は一度、由佳から目線を外したが、湊にバレるのはまずいと思ってわざとらしく目線を合わせて、
「ここから出た後どうするかを話してたんだ」
と苦笑いを作りながら言った。
「へえ、その話私も興味あるなあ。荒木君はここを出た後、何する予定なの? やっぱり会社継ぐ感じ?」
「僕は、そうだね。海外で暮らしたいかな。だから、資金が溜まったら会社は辞めるつもりだよ。早めに跡継ぎを決めてね」
「え、そうなの?」
僕は思わず反応してしまった。そんな話は聞いたことが無かった。てっきり会社を継いで大きくするものだとばかり考えていた。
「ああ、これは誰にも言った事が無かったね。でも将来はそうしたいんだ。僕の立ち位置は僕が一番わかっているからね。だから、海外生活のためにも早く犯人を見つけないとね」
その言葉を聞いて、僕はもう一度最初から出来事を頭の中で整理してみた。
朝、陽菜が殺されていた。その時はベッドの横で血だまりが出来ていて、ナイフが転がっていた。しかし、部屋の中が荒らされた形跡は無かった。ん、待てよ。そもそも本当に凶器はナイフなのか?
「あ、わかった」
思わず声が漏れた。
湊と由佳が、同時に顔を向ける。
僕の頭の中で、あの朝の光景がフラッシュバックした。
……あまりに、綺麗だった部屋。
……凶器のナイフ。
……けれど、死体の位置と血だまりには、妙な違和感があった。
「なにが?」
湊が確認を取るように聞く。
「そもそも、陽菜の時、おかしいと思わなかったか? 部屋が綺麗すぎることが」
「確かに綺麗だった。それは寝てる時に殺されたからじゃないのか?」
「そう。俺もそう思ってた。だけど、もしもそこから使われていたのが毒だったとしたら? そもそもナイフを刺す前から、陽菜が死んでいたとしたら?」
「ああ、そうゆうことか」
「そう、犯人は、いわば保険としてナイフを持っていたことになる。毒がきちんと効くことが分かったら、もう使うことが無いと思って、まるでナイフが凶器であるかのようにそこに置いていった。必要のない刺し傷まで作って」
「結局、犯人は誰なんだ?」
「そうだな。まだはっきりとは言えないけど、犯人が次にする行動ならわかる」
「本当に⁉」
僕はゆっくりと頷く。
「犯人は僕へ罪を被せようとしている。そうなると次の行動は、僕の持ち物へ、毒物を入れることだ」
「確かに。それなら僕が恒星の部屋から恒星の荷物を取ってくるよ」
「いや、今回は三人で行こうと思う。犯人と鉢合わせるかもしれないしな」
「それもそうだね。そうしようか」
湊は笑顔で肯定してくる。彼はその笑顔の裏でどんなことを考えているのだろうか。由佳は由佳で、先ほどの告白といい、何を考えているのかわからない。僕は誰をどう信用するべきなのだろうか。もしかしたら犯人は……。いや、まさかな。
誰を信じていいのか分からないまま、それでも僕は推理を続ける。
今の考察が、これまでで一番――犯人の喉元に迫っている気がした。
雨は、まだ静かに降り続いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます