第7話 ツーリング
日曜日。俺たちはツーリングに出かけた。大学に入ってから日帰りのショートツーリングとは言えタンデムでツーリングに出かけるのは初めてだ。大きな幹線道路を西に向かって走る。特に目的地があるわけではないが、郊外に続く道路はやがて海沿いを走ることになる。
ここから見える海は瀬戸内海。瀬戸内海に浮かぶ島と本州を結ぶ巨大な橋が見えて来る。橋の下の狭くなった海峡は海とは思えないような早い潮流のせいで渦が巻いているのが見える。ちょうど満潮から潮が引き始めているタイミングであるらしい。俺たちは海峡が見える喫茶店に入って昼食をとることにした。2人してピラフとサラダとコーヒーのセットを注文する。
「俺もバイクの免許とろうかな」
「俺が乗せてやるからいらんやろ」
「ソウちゃんに彼女が出来たらこの席は彼女さんに取られちゃうじゃん」
「あほか。彼女が出来てもお前はお前や。ずっとタンデムしてやる」
「でもそれじゃ俺が彼女さんに恨まれるって」
「そんな女とは別れる」
「わー、相変わらず気が短いなソウちゃん。そんなことになったら俺が彼女さんに申し訳が立たないよ」
「お前の方が先客なんだからしょーがないだろ」
「ふーん。でもさ、そんなこと言っててもいざ彼女が出来たら俺のことなんかほったらかすに決まってるし」
「しねーよ、そんなこと!」
「はいはい」
そんな会話をしていたら声を掛けられた。
「外のGPZ400に乗ってるのあなた達?」
フルフェースのヘルメットを小脇に抱えたロングヘアの女性。皮のレーシングスーツ、レーシングブーツに身を包んでいる。すらりとした長身で嫌味でなくなかなか似合っている。
ソウちゃんとバイクで出かけるとこういうのよくあるんだよ。ソウちゃん、モテるからなあ。もしここに俺がいなかったらナンパされて2人で走ろうなんてことになるんだろうけど、こっちは男2人でバイクが1台。いっしょに走ろうって話にはなり
「そうだけど」
「ふーん、かっこいいじゃん。私のはあれ」
そう言われて窓の外を見る。彼女のバイクがソウちゃんのGPZ400の隣に停まっていた。
「へえ、YAMAHAドラッグスター400じゃん!」
ソウちゃんが食いつく。YAMAHA製造の空冷Vツインエンジン搭載のアメリカンタイプのバイク。シートが低いから女性でも足つきがよく低トルクが充実していてロングツーリングでも街乗りでも乗りやすい人気車種だ。GPZ400と同様、今は新車は販売されていないはずだ。俺たちはバイクの話でしばらく盛り上がった。話が途切れたところで彼女が言った。
「ねえ、バイク交換して乗ってみない?」
「傷付けられたら嫌やからやめとく」
あ、今ソウちゃんがムカッときたのが分かった。ソウちゃんって分かりやすい。
「あたし、そんなに下手くそじゃないわよ!」
この彼女、あんまり空気読まない人なのかな。バイクはソウちゃんにとって彼女も同然なんだから交換して乗るなんてありえない、と俺なら分かるんだけど他の人には分からないか。ソウちゃんはバイク乗りはみんな自分と同じように思ってると信じてるところがある。ソウちゃんがちらっと時計を見て言った。
「じゃあ、俺らそろそろ行くわ。楽しかった」
さっさと自分たちの伝票を取って席を立ちレジへと歩いて行こうとするソウちゃん。わー、相変わらず短気だなあ。そっけなさすぎだろってこっちが気を使ってしまうくらいそっけない。俺はちらっと彼女の方を見たが彼女もあっけにとられたような顔してた。俺はソウちゃんの後を追いかけた。しつこく引き留めない人でよかった。しつこい人は嫌いだからなあ、ソウちゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます