2章
第9話
ダンジョン都市エルドニアの、安宿の一室。
13年間、ゴミ集積場を漁る日々を送ってきたが、ロックゴーレム事件で命拾いし、スキルの使い方知った今、俺は最後の一歩を踏み出す。
「買っちまった…」
周りから見れば滑稽かもしれない。
手元にあるのは、冒険者チャンネルの配信用魔道具。
最低限の機能しかない安物だが、これがあればダンジョン内での配信が可能となる。
「元々大した金も持ってねぇが、これでほぼほぼ素寒貧…
これでダメなら…」
意を決して、冒険者チャンネルの配信アプリを起動させる。
配信タイトルは「ジャンク屋レイトのお掃除配信」。
「アイコンは…まあ、適当に自分の顔でも映しておくか。」
チャンネルを作り終え、配信用魔道具の設定などを済ませた
少し緊張しながら、配信開始ボタンを押す。
『配信を開始しました』
画面に通知が表示される。
視聴者数…ゼロ。
コメント…ゼロ。
まあ、予想通りだ。初配信に人がいるほうがおかしい。
だが新着から新人配信者を探して視聴する層が一定数いるのも事実。
こんな底辺ジャンク屋のおっさんが、ダンジョン入口のゴミ拾いをするだけの配信なんて、需要があるのか。
この世界の人気配信者は、ドラゴン討伐とか伝説級ダンジョン攻略とか、主に戦闘シーンやお宝探しをメインにしている連中だ。
それに比べて俺は…ダンジョンにすらまともに入ったことがないうえに配信内容はゴミ拾い。
魔道具を持って、ダンジョン入口へと向かう。
引き続き受けているギルドの依頼書を確認する。
ダンジョン内部1層全域の清掃。
ロックゴーレム事件の調査も終わり後はダンジョン内の片付けだそうだ。
俺としてもジャンク狙いに都合がいい。
セーフエリアを超え1層の奥部へ。
「さてと、依頼の続き、セーフエリアに来ました。ここも結構ゴミが落ちてるんですよね。」
そう言いながら、目の前の元は剣なのかナイフなのか謎の鉄片を意識して【廃品回収】スキルを発動。
歪みと共に鉄片が消え、続いて意識すると空間に次元の渦が現れる。
これが【リサイクルボックス】
渦に触れれば、鉄片が取り出せる。
ロックゴーレムを回収した時ほどの衝撃はないが、改めてダンジョン内でスキルが使えることを実感する。
「うん、ちゃんと回収できますね。よしよし。これが俺のスキル、【廃品回収】です。
ダンジョン内の無機物を回収できる…らしいスキルです。詳しいことは、まあ、これから試しながらですね」
誰に聞かせるでもなく独り言ち、ゴミを回収していく。
単調な作業だが、【廃品回収】を使う度にゴミが消えて異空間に送られるのは、ちょっとした快感がある。
異空間にどれだけゴミが溜まっているのか、全く分からないのがもどかしいが
回収する度に何かが増えていくような確かな手応えはあった。
しばらくすると、画面の視聴者数が1になった。そして、コメントが流れる。
『1ゲト?』
たった一言だが、俺の心に温かいものが灯った。
砂漠の中のオアシスだ。
「あ、いらっしゃいませ、よろしくお願いします!」
『ガンバ』
思わず声を張り上げる。たった一人だが、見てくれている人がいる。
その意識だけで、孤独な作業が少しだけ楽しくなった。
その後、視聴者は2人、3人と微かに増えていった。
コメントも、時折流れてくる。
『どんなゴミ拾ってるの?』
『ジャンク屋って珍しいね』
『スキル使ってる?』
『おっさん、声いいじゃん』
『作業用BGMに最適』
「えっと、どんなゴミかというと…壊れた武器防具とか、ポーション瓶とか、ダンジョンが吸収しないゴミですね。
ジャンク屋、まあ、不遇職なので…普通はダンジョンにいないですよね、あ、スキルは【廃品回収】です。
ダンジョン内の無機物を回収できるスキルで…見ててください…」
質問に答えながら、スキルを使ってみせる。
ドローンを飛ばし回収地点のアップを流す。
意識したゴミが消えると、コメントが流れる。
『おお!消えた!』
『すごいのか?地味なのか?』
『ドラ◯エ?ワープできるの?』
『今何個か消えなかった?』
『範囲スキルじゃない?』
『鑑定説明、曖昧なの多いしなぁ』
「範囲…? あ、そういえば鑑定説明にそんなこと書いてあったっけ…あれ?
たしかに、意識したゴミだけじゃなくて、近くのも消えたことがあったような…?」
言われて気づき、改めてスキルを使ってみる。
少し離れたゴミに意識を集中せず、ぼんやりその辺りスキルを発動すると、そのゴミだけでなく、周辺の他のゴミまでまとめて回収される。
「ええ!? ホントだ! 意識したゴミだけじゃなくて、周りのも回収できた!範囲ってこういうことか!」
視聴者のコメントとのやりとりで、スキルの能力に気づく。
「ちょっと色々試してみますね……あっあそこの瓶、じゃあ皆さん、ドローンは瓶に向けておくので
自分は後ろ向いて回収できるか試しますね。どうなるか確認お願いします。」
「何も意識せずに…いいや、目を瞑って……【廃品回収】!!」
目を瞑り真っ暗な視界の中で、だが何かを回収できた手応えは感じ…
「どうだったでしょうか?」
配信用ドローンの前には何もなくなっていた。
「お、見ていなくても回収できてますね!」
ふとコメント欄に目を向ける
『ちゃんと消えた!』
『瓶だけじゃなかったぞ』
『なんか色々吸い込んでた!』
『ホントだ!範囲だ!』
『鑑定説明よりすごいじゃん!』
『地味だけど、意外と便利?』
『これどれくらいの範囲なの?』
『おっさん、すごいスキルだったんじゃね?』
『これから期待!』
『チャンネル登録しますた!』
「お、また増えてる。視聴ありがとうございます!
見えてなくても回収できるのはわかりましたが
これ何を回収したかわからないのが不便ですよね…」
視聴者とコメントが少し増え、賑やかになる。
視聴者との交流が、スキルを理解するきっかけになる。
たった数人だが、彼らの存在が、俺の寂しいお掃除配信に光を灯してくれた。
彼らの応援と、スキルの小さな発見が、13年間止まっていた俺の時間を再び動かし始めた。
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