第25話
「……凛。これで終わり?」
ちょっと膨れたけど素直に呼び方を変えた。
膨れっ面がまぁ可ぁ愛いこと。
それにしてもこの強烈な“神の悪意”の気配が判らずに災厄は終わったかとか聞いてくるあたり、クオンのBraverとしての能力はサーチにはとことん向いてないんだって判る。
今のは一部だ。
あんな簡単に消し炭になってんだ、末端もいいとこだろ。
本体を見つけ出さねぇとこの“神の悪意”は収束しない。
「まだ、だ」
「まだ?」
「寿人、調べられる?」
やっぱ虎徹か西尾を連れてくれば良かった。
虎徹はあの見た目でゴリッゴリの補助型だから。本来盾の使い方する防御円陣を広げてって違和感をみっけるとか反則みたいなこと出来るし、西尾事態がセンサーみたいなもんだからアイツが居れば何もしなくても本体がわかるっていう便利な奴らだ。
俺やクオンじゃ本体の居所が全く判らない。
闇雲に歩きまくっても本体に辿り着けるとは限らないし、それまでにさっきみてぇな小さな“神の悪意”に襲われまくったらBraverの能力の副作用で動けなる可能性の方が高い。
Braverの能力は発動すると精神的ダメージがデカ過ぎる。
本体を的確に狙って消しにかからないとこっちの心が保たねぇ。
『ん~、やっぱ校舎みたい。そっちから結構な数の悲鳴が聞こえる』
「え!?お兄ちゃん、悲鳴って何?」
『被害者の。これだけのマンモス校だかんね、被害者皆無とはいかないしょ~』
クオンが目を剥いた。
全員を無事救出する気でいたのか……
確かに俺にもそういう青臭い時期があったわ。
Braverになった以上は被害者救済第一、自分みてぇな被害者産んでたまっかよ、みてぇな。
思わず手を伸ばして頭をクシャッて撫でた。
────優しい奴。
クオンならきっと目についた奴を片っ端から助けようとするんだろうな。
割り切りまくった俺等みたいにさっさと本体殺って終わりにはしないんだと思う。
つか、本体すら救おうとするんじゃね?
『……恭平?』
「うん?」
『凛の言う事、ちゃ~んと聞かなきゃダメだよ?』
「大丈夫」
寿人がクオンに言い聞かせてる。
多分間違いなく、俺は余計な存在は見捨てて先へ進む。たとえ目の前で襲われてても、そいつが本体じゃなかったら放置する。寿人もそれが正しいってわかってるから多分、止めない。
俺がダウンしたら俺等に勝ち目はない。
それに本体さえ殺れば、依り代を失った“神の悪意”は一気に収束する。
ついでに言うなら被害者がBraverとして目覚める可能性も一気に減る。
人間で居られるわけだ。
……───人間として生きて人間として死ねる
今の俺には羨ましい事この上ない。
人として歳を重ねて、人として苦楽を味わって死ねる事がこんなにもかけがえ無いものだったなんて昔の俺だったらきっと分からなかった。
教えてやったところで鼻で笑ったんじゃないか?
そこにある日常を有り難がれとか、いきなり言われてもウゼェもんな。
「凛」
不意に差し出された手。
思わず見つめたら、ガッて手を取られた。
思うより体温の高い手が俺の手を握り締める。
「行かなきゃ」
「ん」
これ以上の返事は必要無いよな。
クオンの手を引きながら体育館から繋がる渡り廊下を抜けて校舎へ向かう。
早くここをなんとかしてかっちゃんのところに行ってやらねぇと!
焦りは禁物とはいえ内心かなり焦ってたりする。
『凛』
「あ?」
後ろをついてきてる寿人が暗い声で俺を呼んだ。
気になって振り返ったら、ブニョッて頬に寿人の人差し指が食い込んで変顔になった。
クオンはそれ見て笑うし、俺はムッてなって寿人を睨む。
「何ッだよ!?」
『気負い過ぎ。でもって、焦り過ぎ。だっ』
長い前髪から覗いた深淵を覗き込んだみたいに暗い瞳が俺を見つめる。
無言で寿人を見つめ返す。
言いたい事は理解してる。
確かに俺は焦ってて。
今、廊下の曲がり角から這い出てきた手は寿人の一睨みで霧散したけど、寿人が対処しなかったら不意を打たれてた。
「……お兄ちゃん」
クオン、なんか怒ってんの?
ぶすっとした声で寿人を呼んで、俺の手をぐぃぐぃ引いた。
クオンが寿人の顔を見ようとしないのはいつもの事としても、何怒ってんの?
「早く行こう」
『怒られちった♪』
プリプリしだしたクオンとにっこにこの寿人。
寿人……
何で嬉しそうなんだよ……
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