第24話
【明石eyes】
頭の中がぐちゃぐちゃする。
能力を使う度に自分に襲い掛かった“神の悪意”が付けた傷跡が疼く。
精神に付いた傷口がパクッと開いて、思い出したくないトラウマが頭に次々とフラッシュバックして脳内を炎が埋め尽くす。
火 火 火 火 火 火 火 火 火 火 火 火
どこを見ても紅蓮の炎
脳裏にべったりとこびりついた炎の記憶
寿人が死んだ炎
炎の中かから襲ってくる煤けた手
全ては俺が妬んだから
炎は痛みの象徴
───────痛みは炎
全て焼き尽くせば痛くない?
右手。
意識が急に浮上する。
早く火を消さないと。
関係無い奴まで燃やす前に。
早く。
早く。
早く。
早く。
早く。
「凛っ!」
炎の赤を割って何かが飛び込んできて、そのままぎゅっと俺を抱き締めた。
右手からジッポライターをもぎ取って、カチンッて火が消えたとわかるように音を立てて蓋を閉め、てズボッて勢い良くブレザーの胸ポケットに突っ込んでくる。
脳内でパチッと炎が消えて、俺の目の前一面の赤も消え失せた。
「もう大丈夫だから」
優しい手が俺を抱き締めた。
俺より少し低い位置にある肩に俺の頭をギュッて押しつけて、もう一方の手で何かから守るように背中を叩いた。
迷子のガキをあやすみたいな仕草。
心臓が全力疾走した後みてぇにバックンバックンうっさくて、なのに呼吸はうまく出来なくて唇が戦慄く。
「大丈夫」
全然、力強くないのに。
それなのに強くて優しい腕。
やんわり撫でられた背中。
「……くおん?」
「うん」
「…………無事?」
「うん」
願わくば暫らくはこのままで。
触れていたい。
柄にも無くこの体温に縋っていたいとか考えた。
俺はもう随分と長いこと人のぬくもりなんてものを感じないで過ごしてきて、つい柄にもなくそんなことを考えてしまった。
もしかしたら西尾あたりならくっついてもなんも言われなかったかもしんねぇけど、なんかそんな気になんなかったし。アイツ男だし、かっちゃん文句言いそうだし。
BraverはもちろんWODSの東京支部は男所帯だから他人との距離はどうしたってあった。
クオンを部屋に泊めてても、こっちは日中気ぃ張ってっから精神的に寝てリセットさせたくって他人の体温とか考えてる余裕なかったし。
……人間の感触って、柔らけぇんだっけ。
「助けてくれてありがとう」
クンッて顔を上げた。
俺に向けられた屈託の無い笑顔。
クオンの肩ごしに苦笑いを浮かべる寿人の姿を見つけて、俺を抱き締めるクオンをそぅっと離した。
好きになったりしたら、ダメだから。
ちょっと心配されてコロッといくのもダサいし。
なによりエフェクトとはいえ寿人も居るし!
確かに俺等は時間経過じゃ死なない。
それどころか飢餓もなければ病気にもかからない。本当は睡眠欲だってほとんどないし性欲も無い。夜が来た今までの習慣通り目を瞑って眠るだけだ。そこに他の事情が差し挟まることは無い。
それにやった事ないからわからないけど、多分SEXしても子供とかは出来ないと思う。
生産的な行為は全て無意味。
Braverは全員漏れなく時が止まってるから普通に生きてる人間と長く交友をすることも出来ねぇし、子供みたいにこれから成長していく存在を生み出すことも恐らく出来ねぇっぽい。
わざと嫌味な言い方をするなら、本当なら俺達は“神の悪意”に遭遇した時点で死んでいて。個々人の持っていた運命力はそこで尽きていて。だらだらと生きる他なくって。
今の状態は神様とやらのお目溢しで生かされてるだけの存在なんだとさ。
WODSの存在理由はBraverの保護や“神の悪意”の被害者の救済だけじゃない。
永い、永い時間。
死ねずに存在し続ける。
老いる事も、飢える事も、死ぬ事もなく存在し続ける。
精神に異常を来すBraverが居ないわけじゃない。
寧ろ狂う方が健全ですらあると思うわ。
WODSは狂って“神の悪意”そのものになり果てたBraverを殺す為の組織でもある。
「明石っ!」
「……も、平気」
居心地良かった腕から抜け出した。
クオンの手を離してから、倒れている学生の喉元に手を添えて様子を探ってみる。
呼吸も脈もあるし、それ以外の反応もない。
“神の悪意”に感染している様子もないし、これなら後で始末しなくてもよさそうだ。
記憶操作は西尾かかっちゃんに頼まねぇといけないだろうけど、取り敢えず今は放置で。
「あか……」
「だ~っから!凛!!」
別に良いんだけど。
呼び名なんて。
でも、クオンには凛って呼んでほしくて。
クオンに凛って呼ばれると、まだ人間だった時の感覚が戻ってくる気がしてなんか拘っちゃうんだよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます