第31話 決戦!祠の祭壇!印籠の力と三人の絆!
壁に叩きつけられ、ぐったりとしていたはずの狸谷ぽこさんが、むくりと顔を上げた。その瞳には、いつもの能天気さは欠片もなく、見たこともないような真剣な…いや、何かを決意したような強い光が宿っていた。
闇鴉の幹部――影狼と名乗るべきか、その男がゆっくりとぽこさんに近づき、「さあ、その“証”、渡してもらおうか」と手を伸ばした、まさにその瞬間だった。
「…お腹が、空いたでござる」
ぽこさんは、静かに、しかしはっきりとした声でそう呟いた。
は? お腹が空いた? この、絶体絶命の状況で何を…!? 俺、風間ハヤテと猫宮レイさんが呆気に取られていると、ぽこさんはおもむろに懐(いつの間にそんなものを!?)から、巨大などら焼きを取り出したのだ! しかも一つじゃない、三つも四つも!
「これを全部食べれば、きっと力が出るでござる! そしたら、ハヤテ殿とレイ殿をいじめる悪いやつなんて、ぽんぽこぽーんでござる!」
そう宣言すると、ぽこさんは凄まじい勢いでどら焼きを頬張り始めた! もぐもぐ、もぐもぐ…! その異様な光景と、緊迫した状況とのあまりのミスマッチに、さしもの影狼も一瞬動きを止めた!
「な、何を…ふざけているのか、貴様…!」
影狼の額に青筋が浮かぶ。その僅かな隙を見逃す俺たちではない!
「レイさん、今です!」
「言われなくても!」
俺とレイさんは同時に飛び出し、影狼に左右から挟撃を仕掛ける! 俺が陽動のために煙玉を投げつけ、視界を奪われた影狼に、レイさんの鋭い蹴りが脇腹に叩き込まれる!
「ぐっ…!」
影狼が呻き声を上げるが、すぐに体勢を立て直そうとする。だが、その時!
「ぽんぽこパーンチ!」
どら焼きを完食(秒殺だった)してエネルギー充填(?)完了したぽこさんが、影狼の背後から猛然と飛びかかり、その小さな拳を叩き込んだ! …いや、拳というより、もはや岩石のような質量を感じる一撃が!
「がはっ…!?」
不意を突かれた影狼は、たまらず前方へ数メートル吹き飛ばされ、壁に激突してようやく止まった。
「…首領の…儀式が…始まる…。お前たちも…すぐに…後悔するがいい…」
影狼はそれだけ言い残すと、煙のようにその場から姿を消した。…逃げられたか。だが、今はあいつを追っている暇はない!
「ぽこさん、大丈夫でしたか!?」
「ハヤテ殿! レイ殿! どら焼きパワーで元気いっぱいでござる!」
…その元気の源がどら焼きってどうなんだ。まあ、助かったのは事実だが。
俺たちは、影狼が消えた方向――祠のさらに奥へと続く通路へと急いだ。不気味なほど静まり返った通路を抜けると、そこは広大な空間となっていた。そして、その中央には、禍々しい文様が刻まれた巨大な祭壇が鎮座し、その上には…!
「学園長!」
衰弱しきった様子で、祭壇に鎖で拘束されている学園長の姿があった! そして、その祭壇の前には、黒いマントを羽織った、底知れぬ威圧感を放つ一人の男が立っていた。あれが、闇鴉の首領…!
「フフフ…よくぞ来た、招かれざる客よ。だが、少し遅かったようだな」
首領は、俺たちを一瞥すると、せせら笑うように言った。
「ついにこの時が来た! 古の祠の力と、かの“万象を従える印籠”を手に入れ、全ての忍者を我が支配下に置き、新たな時代の覇者となるのだ!」
首領が高らかに宣言すると、祭壇の周囲に描かれた文様が怪しげな光を放ち始める! ヤバい、儀式が始まってしまう!
「させるか!」
俺はクナイを投げつけ牽制し、レイさんと共に首領へと突っ込む! だが、首領は俺たちの攻撃を余裕綽々で見切り、軽く手を振るだけで俺たちを吹き飛ばした!
「ぐあああっ!」
「きゃっ!」
なんだ、この圧倒的な実力差は…! まるで子供扱いだ!
「無駄な足掻きはやめろ。お前たちの役目は、その娘が持つ印籠を、我が手に渡すことだけだ」
首領の冷酷な視線が、俺の後ろに隠れるぽこさんに注がれる。
「それだ、その娘が持つ印籠こそが、我が野望の最後のピースよ!」
絶望的な状況だった。ハヤテは必死に策を練ろうとするが、あまりの力量差に思考が追いつかない。レイも唇を噛み締め、再起を試みるが、首領の放つ威圧感に体が竦む。
「ハヤテ殿…レイ殿…」
ぽこさんが、震える声で呟いた。彼女の瞳には、恐怖と、そして仲間を傷つけられたことへの強い怒りの色が浮かんでいた。
「拙者のせいで…拙者の持ってるもののせいで、みんなが…!」
首領の禍々しい術が、ぽこさん目掛けて放たれる!
「ぽこさん!!」
俺とレイさんが、咄嗟に彼女の前に立ちはだかろうとした、その瞬間だった!
カッ!!!!
ぽこさんの胸元、葉っぱのネックレスが、これまでとは比較にならないほどの眩い光を放った! それはまるで、小さな太陽が生まれたかのような強烈な輝き!
「なっ…!?」
首領が驚愕の声を上げる!
光の中心で、ぽこさんの姿がおぼろげに揺らめく。彼女のふさふさのタヌキ耳がピンと張り、その瞳は金色にも見える不思議な輝きを湛えていた。そして、葉っぱのネックレスはひとりでに解け、その中から…手のひらサイズの、古めかしいが威厳に満ちた「印籠」が姿を現したのだ!
印籠は、まるで生きているかのように脈動し、周囲の闇鴉の術を霧散させ、首領の動きをも鈍らせるほどの強大なプレッシャーを放ち始めた!
「お、お腹の底から…なんだか、すごいゲップが出そうでござる…!」
ぽこさんは、自分の身に何が起きているのか全く理解していない様子で、しかし、その口から漏れるのはゲップではなく、まるで古の言霊のような、不思議な響きを持った声だった!
「「「闇鴉! ここまでだ!!!」」」
その声と共に、祭壇の入り口から、犬飼先生率いる学園の教師陣が一斉に突入してきた!
「な、何놈!?」
首領が動揺する! 印籠の力と、屈強な教師陣の参戦により、形勢は一気に逆転した!
「おのれ…! 印籠の力が、これほどとは…! だが、これで終わりではない…真の覚醒の前に、必ずや再び…!」
首領は忌々しげにそう言い残すと、黒い煙と共にその場から姿を消した。闇鴉の残党たちも、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
嵐のような戦いが終わり、祭壇には静けさが戻った。儀式は阻止され、学園長は教師たちの手によってすぐに救出された。
印籠の輝きも収まり、それは再び葉っぱのネックレスの形に戻って、ぽこさんの首元に収まった。力を使い果たしたのか、あるいは単に満腹で眠くなったのか、ぽこさんは「ふぁ~あ…」と小さくあくびをすると、俺の腕の中で安心しきったように、すーすーと寝息を立て始めた。
俺とレイさんは、安堵と極度の疲労の中で、ただ呆然と眠るぽこさんの顔を見つめていた。彼女が持つ、あの印籠のただならぬ力…。そして、闇鴉の首領が残した不吉な言葉…。
俺たちの戦いは、まだ始まったばかりなのかもしれない。
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