第30話 罠だらけの祠!ハヤテの機転と印籠の微かな共鳴!

 煙玉の白い煙が立ち込める中、俺、風間ハヤテは脇腹の痛みに顔を歪めながらも、必死で状況を把握しようと努めた。闇鴉の斥候は五人。数はこちらが不利だが、奇襲の利はもうない。


「レイさん、右翼の二人をお願いします! ぽこさん、正面のデカいのを頼む! 俺は残りの二人を引き付ける!」

「承知しましたわ!」

「お腹が空いて力が出ないけど、頑張るでござる!」(やっぱりか!)


 俺の指示に、レイさんは猫又ならではの俊敏さで舞い、クナイで的確に敵の動きを牽制する。その太刀筋は鋭く、美しい。一方ぽこさんは、「えいっ! やーっ!」と叫びながら、一番体格の良い斥候に真正面から突進! まるで暴走する子熊だ! 相手が繰り出す攻撃を、その頑丈すぎる体で(多少は痛そうだが)受け止め、強引に押し返している! …うん、相変わらず規格外だな、この狸娘は!


 俺も負けてはいられない! 地形を頭に叩き込み、木の影や岩陰を利用して斥候二人を翻弄する。時折、撒菱をばら撒いたり、小石を投げて陽動したりと、得意の(セコい)戦術でなんとか時間を稼ぐ!


「ちぃっ、小賢しいガキどもめ!」

 斥候の一人が業を煮やし、俺に目掛けて刀を振りかざしてきた! まずい、避けきれない!

「ハヤテ殿、危ないでござる!」

 その瞬間、ぽこさんが俺の前に割り込み、その小さな背中で俺を庇った! 彼女が相手にしていた大男は、いつの間にか地面に伸びている。…どうやったんだ!?

「その娘を狙え! あの方の命令だ、“証”を持つ娘は必ず…!」

 別の斥候が叫び、ぽこさんにターゲットを集中しようとする! やはり、ぽこさん(の持つ何か)が目的なのか!


「させませんわ!」

 レイさんが風のように割り込み、斥候たちの連携を断ち切る! その隙に、俺はぽこさんの手を引き、

「一度退きましょう! このままじゃ不利です!」

「でも、まだ戦えるでござる!」

「いいから!」


 俺たちは、一時的に斥候たちを振り切り、森の奥へと駆け込んだ。息を切らし、肩で息をしながらも、足を止めるわけにはいかない。追っ手が来る前に、あの「古い祠」を見つけなければ!


「…ハヤテ殿、あっちから、なんだか古くて、ちょっとカビ臭い匂いがするでござる」

 しばらく進むと、ぽこさんが鼻をくんくんさせながら、森の奥深く、鬱蒼とした木々に覆われた一角を指差した。そこだけ、妙に空気が淀んでいるような気がする。


 俺たちは、息を潜めてその方向へ進んだ。そして、ついに見つけたのだ。苔むした石段の先に、ひっそりと佇む、古びた木造の祠を。それは、昼間だというのに周囲だけが薄暗く、禍々しい気配すら漂わせている。間違いなく、ここが闇鴉の目的地、そして学園長が囚われている可能性が高い場所だ。


「…ここが、例の祠…。見るからにヤバそうですけど」

「入り口に何か仕掛けられているかもしれませんわ。注意して」

 レイさんが鋭い目で祠の入り口を観察する。案の定、扉の前には巧妙に隠されたワイヤーが張られ、その先には毒針のようなものが仕込まれていた。

「俺がワイヤーを切ります。レイさんは毒針の対処を」

 俺たちは慎重に罠を解除し、ギィィ…という気味の悪い音を立てて開いた祠の扉から、内部へと足を踏み入れた。


 中は、予想通り薄暗く、カビ臭い匂いが充満していた。まるで迷路のように入り組んだ通路が奥へと続いている。壁には奇妙な紋様が刻まれ、床には時折、怪しげな色の液体が染み付いている。

「うわっ!」

 俺が踏み出した床の一部が、突然抜け落ちた! 落とし穴だ!

「風間くん!」

 咄嗟にレイさんが俺の腕を掴んで引き上げてくれた。あ、危なかった…。

「ありがとう、レイさん」

「…フン。足を引っ張らないでくださいまし」

 顔を赤らめてそっぽを向くレイさん。うん、通常運転だ。


 その後も、通路からは毒矢が飛び出し、角を曲がれば幻術の霧が立ち込め、天井からは巨大な岩が落ちてくる! まるで古典的なダンジョンじゃないか!

 俺の冷静な(必死な)指示と、レイさんの超人的な身体能力で、なんとかこれらの罠を切り抜けていく。


「ハヤテ殿ー! こっちの道は、なんだか甘くて美味しそうな蜜の匂いがするでござるぞー!」

 ぽこさんが、一本の脇道をするすると進んでいく。

「ちょ、ぽこさん! そっちは罠かも…!」

 俺が慌てて後を追うと、その通路は驚くほど安全で、しかも近道だったらしい。…本当に、こいつの食欲センサーは侮れない。


 祠の奥へ進むにつれて、ぽこさんの様子が少しおかしくなってきた。

「うーん…なんだか、胸のあたりがポカポカするでござる…」

 彼女が自分の首元、葉っぱのネックレスのあたりをさする。

「それに、時々、頭の中でキーンって音がするでござるよ?」

「大丈夫ですか、ぽこさん?」

「平気でござる! 多分、お腹が空いてきただけでござる!」

 …いや、絶対違うと思うぞ!


 そして、ある広間に出た時だった。壁一面に不気味な呪符が貼られ、中央には血痕のようなものがこびりついた祭壇が置かれている。その祭壇に近づいた瞬間、ぽこさんの葉っぱのネックレスが、淡い緑色の光を一瞬だけ放った!

「ひゃっ!?」

 ぽこさん自身も驚いたように自分の胸元を見る。

「今、光った…でござるか? お腹が光ったでござるかな?」

 …だから、お腹じゃないって! 俺とレイさんは顔を見合わせる。やはり、このネックレスに、そしてぽこさん自身に、何か特別な力があるのは間違いない。


「見てください! あれは…!」

 レイさんが、祭壇の隅に落ちていたものを見つけた。それは、学園長がいつも愛用していた古びた煙管と、特徴的な鼻緒の一本歯の下駄だった。そして、その近くには、破り捨てられた羊皮紙の切れ端が散らばっている。

 俺がそれを拾い集めてつなぎ合わせると、そこには断片的な文字が記されていた。

『…娘ヲ祭壇ニ…印ノ力ヲ解放セヨ…魂ヲ贄トシ…』

 娘…印の力…魂を贄…!? とんでもなく物騒なことしか書いてない!


「やはり、学園長はここに…そして、闇鴉は何か恐ろしい儀式を計画しているようですわね」

 俺たちが息を呑んだ、その時だった。

 部屋の奥の暗闇から、静かに、しかし圧倒的なプレッシャーを放つ人影が、ゆっくりと姿を現した。黒い装束に身を包み、その顔は深い頭巾で隠されているが、鋭い眼光だけが暗闇の中で爛々と輝いている。


「ほう…ネズミが三匹、迷い込んできたか。よくぞここまで辿り着いたものだ、感心させてくれる」

 その声は、まるで地を這うような低く冷たい響きを持っていた。こいつが、闇鴉の中堅幹部…いや、それ以上の存在かもしれない!

「だが、お前たちの冒険ごっこも、ここで終わりだ。特に…そこの狸娘。お前が持つ“証”は、我々闇鴉が丁重に頂戴する」

 男の視線が、真っ直ぐにぽこさんを射抜いた!


「ハヤテ殿とレイ殿をいじめるやつは、拙者が許さないでござるぞー!」

 ぽこさんが、いつものように(?)怒りを爆発させ、真正面から男に突進していく!

「ぽこさん、無茶だ!」

 俺の制止も間に合わず、ぽこさんの渾身のタックルが男に炸裂…するはずだった。


 しかし、男は微動だにしない。それどころか、ぽこさんの突進を片手で軽々と受け止め、そのまま力任せに壁へと叩きつけた!

「きゃうんっ!?」

 ぽこさんが短い悲鳴を上げ、壁に叩きつけられてぐったりとしてしまう!


「ぽこさん!!」

「狸谷さん!」

 俺とレイさんが叫ぶ! まずい、今までの敵とは格が違う!

 男はゆっくりと、倒れたぽこさんに近づいていく。

「さあ、その“証”、渡してもらおうか」


 絶体絶命のピンチだ! 俺たちの力では、到底太刀打ちできない相手かもしれない!

 だが、ここで諦めるわけにはいかない! ぽこさんを、学園長を、そしてこの訳の分からない状況から、絶対に抜け出してやる!


 俺が覚悟を決めて飛び出そうとした、その瞬間。

 ぐったりとしていたはずのぽこさんが、むくりと顔を上げた。その瞳には、いつもの能天気さはなく、見たこともないような、真剣で…そして、少しだけ悲しそうな光が宿っていた。


 そして、彼女はとんでもない行動に出たのだ――!

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