第3話 グループ結成! 前途多難トリオ、最初の共同作業(という名のカオス)
忍ヶ丘学園での生活にも、ほんの僅かばかり慣れてきた(諦観とも言う)今日この頃。俺、風間ハヤテの胃痛は、しかし、軽減されるどころか悪化の一途を辿っていた。原因? 言うまでもなく、俺の隣の席に座るタヌキ耳少女、狸谷ぽこさん、その人である。
そして今日、俺の胃に更なる追い打ちをかける悲劇が訪れた。鬼教官・犬飼先生による、今後の実技訓練等で行動を共にする「三人一組(トリオ)」のグループ分け発表だ。
(頼む……! せめて、せめてまともなメンバーと組ませてくれ! ぽこさんと同じ班だけは、どうか、どうかご勘弁をッ!)
俺は神にも仏にも、ついでにそこらへんにいるかもしれない忍者にも祈った。だがしかし、現実は非情である。
「――以上だ。決定したグループで、今後一年間、協力して任務・訓練にあたるように。…ああ、それから風間、狸谷、猫宮。お前たちの班は特に問題を起こさんよう、班長の風間が責任を持って指導しろ。いいな?」
「………………………………はい」
終わった。俺の平穏な(はずだった)学園生活、完全に終了のお知らせだ。よりにもよって、物理法則無視のたぬき娘と、イヤミ炸裂のエリート猫又と同班だと? どんな罰ゲームだよこれは!
「おお! ハヤテ殿と同じ班でござるか! これは心強いでござる!」
当のぽこさんは、俺の絶望など露知らず、能天気に尻尾を揺らして喜んでいる。お前のせいでもあるんだぞ!
「……最悪ですわ」
そしてもう一人、俺と同じくらい(あるいはそれ以上に)絶望的な表情を浮かべているのが、猫宮レイだ。氷点下の視線が俺とぽこさんを貫く。「落ちこぼれの狸に、それに釣られる凡人…この班でまともな成績が残せるとは到底思えませんわ」
ぐうの音も出ない正論、ありがとうございます!
そんな俺たちワケありトリオに、早速最初の共同作業が言い渡された。来週行われる新入生歓迎会に向けた「教室の飾りつけ」だ。テーマは「春」。
(よし、飾りつけなら俺の計画性が活かせるはずだ……!)
気を取り直し、俺は早速タブレットを取り出し、効率的なプランを練り始める。桜の切り絵、鶯のモビール、春らしいパステルカラーの装飾……役割分担して、計画的に進めれば。
「飾りつけでござるか! 楽しそうでござる!」
ぽこさんが目を輝かせ、早速作業に取り掛かる! ……のはいいのだが。
ザクッ! ギギギ!
「ぽこさん!? ハサミで机まで切らないでください!」
くるくるくる……ぺたっ。
「ぽこさん! それは折り鶴じゃなくて、謎の立体Xです! しかも糊がはみ出てます!」
ぺろっ。
「……むぐ」
「ぽこさん!? それは飾り付け用の桜餅の模型! 食べられませんから!」
……ダメだこいつ、早くなんとかしないと!
作業開始からわずか十分で、ぽこさんは立派な「歩く災害」と化していた。もはや共同作業どころか、単独破壊活動である。
「フン、見ていられませんわ」
一方、レイはため息をつきながらも、その指先からは驚くほど繊細で美しい桜の切り絵が次々と生み出されていく。さすがエリート様は違う。……が、その口からは相変わらず毒が止まらない。
「狸谷さん! あなたはそこに座って、おとなしくお団子のことでも考えていなさい!」
「風間くんも! あんなのを野放しにしないで、しっかり手綱を握ってくださいまし!」
「は、はい! すみません!」(なぜ俺が怒られるんだ……)
計画性皆無のぽこさん、高性能だが口うるさいレイさん、そしてその間で右往左左往する俺。飾りつけ作業は、開始早々からカオスを極めていた。
そんな中、事件は起きた。
天井から飾りを吊るそうと、脚立に登っていたぽこさん。「よいしょ、でござる~」と手を伸ばした瞬間、バランスを崩してぐらりと傾いた!
「わわっ!?」
「ぽこさん! 危ない!」
俺が咄嗟に駆け寄る! だが、間に合わない!
――その時だった。
「……チッ!」
舌打ちと共に、隣で作業していたレイが、猫のような俊敏さで動いた! ひらりと身を翻し、落下しかけたぽこさんの腕をガシッと掴む!
「……!」
「おお! レイ殿、ありがとうでござる!」
助けられたぽこさんは、きょとんとした顔で礼を言う。
俺も呆然としながら、「あ、ありがとうございます、レイさん! 助かりました!」と頭を下げる。
レイは掴んだ腕を乱暴に離すと、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「べ、別に、あなたのためじゃありませんことよ! 狸谷さんが怪我でもしたら、班の評価が下がって迷惑だから、仕方なく助けただけですわ!」
耳元の鈴が、チリリと高い音を立てて鳴る。……その反応、完全にツンデレじゃないですか、レイさん。
そんな一幕もありつつ、俺たちの最初の共同作業は、なんとか終了時刻を迎えた。
完成した教室は……まあ、なんというか、個性的? レイの作った美しい桜飾りの隣に、ぽこさんが描いたシュールな団子の絵が貼られ、壁には謎の糊の跡が点々と残っている。俺の立てた計画は見る影もないが、まあ、形には……なった、のか?
「終わったでござる~! お腹が空いたでござる~!」
ぽこさんは達成感(?)に満ちた顔で、自分のお腹をポンポンと叩いている。
俺は、そんなぽこさんと、不機嫌そうだがどこかやり遂げた顔(?)をしているレイを交互に見ながら、本日何度目か分からない、深くて長いため息をつくしかなかった。
この三人で、本当に一年間やっていけるのだろうか……? 俺の胃は、果たして持つのか……?
前途多難すぎる学園生活への不安は、ますます募るばかりだ。
(続く)
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