第28話 勇者様を迎えに行こう-2
「はい確かに。今、鍵を開けますね」
なんでも、町にある宿屋とは違って、一軒そのまま使ってくれ、との事だった。台所はあるけれど、特に村の中に店はない。町で色々買いこんできてよかった、ってところだ。
「ジジイ料理」
「出来ねえ。お前は?」
「奴隷剣士に何求めてやがる」
俺とジジイは顔を見合わせて頷いた。次に町に戻る時も、食料を買って来なくてはならねえ。いやまあ、俺が一人でダンジョンに潜れるようになったら、その間にジジイが買い出しに行ってもいいし。雇ってもいいのか。
「寝床があるだけでありがてえ事です」
「掃除や洗濯なんかは、頼んでいただければ」
「おいくらですかな?」
ジジイがさっそく食いつく。まあ、金自体はある。ああそうか。こうして村に外貨を落とすのは、悪い事じゃないだろう。
ジジイと村長がそんな話をしている横で、俺は宿に入る。玄関入って、目の前に居間。布をかけられた、椅子が見える。
「窓、開けるね」
「ありがとう」
俺より小柄な、勇者様がするりと宿に入って窓を開けてくれる。木製の窓は、閉まってると暗くてよく分からねえ。
いやまあ勇者様は俺より年下だから確かまだ成人してねえはずだし、お城で美味いもんをたらふく喰わせてもらって体を作って来た俺と、寒村の子供を比べちゃだめだわな。俺よりでかいとか怖いわ。
「あっちに個室が三つあるから、それを使って。かまどはこっち」
「風呂は?」
「裏に」
玄関からまっすぐ行ったところにもう一つドアがあって、そこから裏口に出られるようになっていた。そこには小さな小屋があって。
「あれが風呂小屋。村の皆で、使っていて」
「毎日は、沸かしてねえの?」
「そうだね。必要な時だけ」
「金払ったら、毎日沸かしてもらえんのかな。汗流してえもんな」
ジジイに言って、村長に聞いてもらうか。薪代だって、ばかにならねえもんなあ。ジジイはあんまり汗かかねえから要らねえかもしれねえけど、俺は入りたい。流した汗は布で拭うんじゃなくて、湯で流した方が気持ちいんだよ。
「俺、バティスト。あんたは?」
「カミーユ。村長の息子だから、何でも聞いて」
「お。助かる。ダンジョンって、ここから近い?」
「近いよ。子供は近寄っちゃダメって、言われる距離だ」
「道とかある?」
「どうかな? 最近行ってないから分かんないや」
「あとで案内してくれ。今日は入んないけど、場所だけ確認しときたい」
「いいけど……」
ちらり、と、カミーユはジジイと話してる村長の方を見る。ああ、家の手伝い、とか、あんのかな。じゃあまあ無理は言えねえけど、出来ればここで勇者様とは仲良くなっておきてえな。
「ジジイたちと話が終わったら、許可貰おうぜ。それなら問題ねえだろ」
「ああそうか。勝手に行かなきゃ、いいんだ」
「そうそう。中がどうだったかは、俺が教えてやるよ」
勇者様は、俺より年下のはずだ。俺の年齢が分かんねから、はず、だけど。だから多分まだ、成人していない。成人していても、このダンジョンには入れねえだろうけれど、成人したらジジイがなんとかかんとか言いくるめて、ダンジョンに入れるだろう。誰を言いくるめるって、親父に決まってる。
俺がするべきは、それまでに仲良くなっておくことだ。出来るとか、出来ないとかじゃなくて、なる、んだろうなあ。外から来た人間に、カミーユだけじゃなくて他の子供たちも興味津々でこっちを見てるのを感じる。気が付いたら変だから気が付かねえ振りをしておくけどよ。
この宿にちょっぴり興味があるらしいカミーユと一緒に、宿の中を見ていく。ジジイは玄関で村長と何か話してる。聞き耳を立てれば聞こえるんだろうけれど、まあその辺りはいいや。あとでジジイに聞きゃあいい。
でかいリュックは居間の床に置きっぱなしで、カミーユと居間の向こう側に行く。壁の向こう側には廊下があって、扉が三つ。開けてみれば、ベッドが一つと、小さい箪笥が一つ。扉は三つとも同じ。俺とジジイだけだから問題ないけれど、三人以上来たらいきなり居間で雑魚寝する奴が出るな。
「ここと同じ家が、後二つあるんだ」
「九人までは、何とかなるのか」
「そういう事だね」
それを超えることは、無いだろう。超えるようなことがあるとすれば、まあその時新しい家を建てりゃいいんじゃないかな。土地はありそうだ。
「おうどうだった」
「三部屋あった。悪くねえ」
「じゃあ一部屋は儂の研究室に貰うとして」
「風呂は」
まあ、俺は寝床があって、広い居間もあるからもう一部屋をジジイが取っても文句はない。武器の準備とか手入れとか、戦利品の整理とかも、居間でやればいいだけだしな。
それより風呂だよ、風呂。
「ちょうど今その話をしとったわ。お前毎日入りてえよな?」
「絞った布は勘弁してくれ」
仕方がないから、それで我慢するときも勿論ある。旅程の途中とかな。けど入れるなら入りたい。
「うちの村では、毎日入れてないですね」
だよな、薪も値段かさむもんな。
「俺が自分で用意してもいいぜ。浴槽に水入れて火の玉入れりゃいいんだよな?」
「どこでそんなん覚えてきた。儂は教えとらんぞ」
「前のところの兄貴分たちが、そうやってたんだよ」
ジジイが非難がましい目でこっちを見てくる。けど俺だって、騎士団の連中がやっていた方法しか知らん。いや、ジジイを迎えに行ったバゼーヌの町の領主の館で、魔法の鍵を使った風呂に入ったけどな。それはそれでまた違うだろう。
ジジイは額を抑えて俯いて、勇者様は目ん玉ひん剥いて俺を見て、村長は空を仰いだ。だからやる前にちゃんと聞いたじゃねえか。
「普通は、普通はな」
「おう」
「薪に火をつけるんじゃよ……?」
「知ってる」
「バティスト……お前って奴ぁ……」
「やり方教えてくれりゃあ、俺が自分でやるぜ」
村長が小せえ声で、カミーユに教えてやれと言った。言ったな? 俺は聞いたぞ。
「それはそれとしてジジイ」
「おうなんじゃい」
「カミーユに聞いたら、ダンジョンの場所分かるっていうから、今日中に一回確認しとこうぜ」
「儂は疲れた、概ね今のお前のせいで。お前が案内されてこい。よろしいか?」
「ええ、構いません」
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