第27話 勇者様を迎えに行こう-1

 アベラール国を出て、オベール国を経由し、エマール国へ。城を出てから一体何日たったのか。ジジイは数えているかもしれないけれど、俺は数えていないのでさっぱりわからん。ジジイはたまに伝書バトの魔法を使って、誰かとやり取りをしている。王子様か陛下か、ベランジュのジジイか、その配下か。用がないから聞いていないし、必要があれば教えてくれるだろうから、俺は使ってんな、って見てるだけだ。


「明日はオーリク村に行くぞ」

「あいよ」


 オーリク村の近くの町。オービニエ。ここは近隣にある八つのダンジョンの総括である。オーリク村にあるダンジョンもその一つだ。

 スライムばっかりのダンジョンと、オオカミばっかりのダンジョンと、トカゲばっかりのダンジョンと、ゴブリンばっかりのダンジョンで間引きの依頼を受けてきた俺は、歓迎された。そりゃそうだ。こんな糞みたいなダンジョン、何かのついででもなけりゃ行かねえわ。


「行くのは儂じゃなくて、弟子でな」

「よろしくお願いします」


 頭を下げておく。昼前の閑散とした冒険者のギルドの、受付のカウンターの向こう側には二人。にこにこしたおっさんと、なんとも言えない顔をした姉さん。


「間引きを受けていただけると、本当に助かるんですよ」

「そうじゃろうな」


 ジジイとおっさんの間では、話が進んでいくが。姉さんは、まあ、俺が一人で行くってのに難色を示す。分からんでもねえけどよ。けど。


「ギルドとしては、ジジイに依頼金払えるのかよ」

「無理ですね!」


 おっさんは言い切る。だろうな。南の賢者様に間引きの依頼出すとか、どう考えても足出るもんな。

 その点俺なら無名の奴隷だ。いや有名な奴隷だっているんだよ。前の俺とか。今の俺はまだまだ修行中の奴隷の小僧で、それほど高額にはならない。別の予定でオーリク村に滞在したいから、受けるわけで。


「ギルドとしても、この値段でやってもらうのは心苦しいので、そこでこちらです」


 おっさんが、カウンター何かを置く。それはジジイが持ってるのと似たようなポーチだ。


「魔法のポーチをお貸しします。こちらが一杯になったら、一度オービニエに戻ってきて、清算をして下さい」

「お、そいつは助からあ」


 これあれか。俺が一人で往復すんのか。いいけどもよ。多分そんなに大変でもねえだろうし。


「それから、あちらでの宿泊費はギルドが持ちます。こちらをどうぞ」


 渡されたのは、板切れ。オーリク村の宿屋に、こいつを見せれば宿泊費はギルドに請求してくれるんだそうだ。飯代は普通に、自分達持ちだけどな。それでも、助かることに変わりはない。


「じゃあまあそれで……ああまてまて。もうひとつだ」

「なんでしょう」

「ダンジョンについて教えてくれ」

「ああ、はい」


 おっさんは受付の姉さんにアイコンタクトして、去っていった。まあ、あとは普通の受付だよな。

 嫌そうに姉さんが教えてくれるには、このダンジョンには一フロアに一つしか部屋がなく、そこには一体の巨人がいるのだという。一つ目だったりなんだったりと多彩ではあるが、一体しかいないので、稼ぎにならない。だから、誰も潜らない。


「俺一人でどこまで行けるかね」

「最終目標は最後までじゃな」

「そりゃそうだけどさ」


 使っていた折り畳みの椅子がちょっとぼろくなってきたので、新しく買える場所を聞いて、俺たちはオービニエの冒険者のギルドを後にすることにした。とりあえず魔法のポーチにどこまで入るか確認をするために、小袋を追加で一杯買って、そこに食料を詰めた。あふれた分はリュックサックに入れて、道中食べることにした。まあ、ジジイの魔法のポーチに入れてもいいんだけどさ。おやつとか昼飯とか程度のあふれ方だったから。


「小せえなあ」

「文句言うなよ」


 ジジイのポーチと比べちゃいけないと思うんだよな。だってあんた、南の賢者様じゃねえか。

 借りた魔法のポーチも俺のリュックサックに突っ込んで、片道三時間の距離をオーリク村まで歩く。近いのか遠いのか、微妙な距離だ。近くはないけど、かといってめちゃくちゃ遠い……遠いか。このところずっと旅してたからなんかなんかマヒしてたけど、十分遠いわ。オービニエでしか清算できねえのに、そのオービニエから日帰りできないならそりゃ過疎るわ。

 オーリク村が見えてくるまでに、二回の休憩を挟んだ。水は歩きながら飲めるけど、ジジイはジジイなので疲れるのだ。別にここまで来たら急ぐ旅でもねえから、休憩は適度に取る。

 村に続く一本道は、踏みしめられているけれど、雑草もちらほらと生えている。オービニエのギルドで聞いた話じゃ、まあ、盗賊もそりゃでないわな、って風情だ。だって人通り、俺たちしかいないもんな。


「よ、ようこそいらっしゃいました?」


 村についたら、たまたま出会った村人が、おっかなびっくりそう言ってくる。なんで疑問形なんだよ。着いてるだろ、俺たち。この村に。


「おう。ギルドから依頼を受けてな。ほれ、ダンジョンの間引きじゃよ、間引き」

「ああ! 受けて下さったんですね。ええとちょっと待ってください。おい、村長に!」

「ああ、行ってくる。あとで宿で!」


 近くに他にも村人いたのかよ。そいつはどこかにすっ飛んで走って行って、俺たちに首をかしげていた人は、こっちこっちと俺たちを手招いた。


「あんまり広い村じゃないんですけどね、ダンジョンがあるから、宿はちゃんとあるんですよ」


 お客さんほとんどいなくて、使ってないんですけどね。と、笑われても俺たちは笑いづれえわ。けど案内してくれるなら、とついて行ったのは、村の入り口から続く道のドンつまり。さっきの村人が走り去っていったのと、同じ方角だ。


「あれ、が村長さんの家で」


 広場に面して建っているけれど、他の家と大きさ的には遜色がない。知らないと分かんねえな、これ。


「こっちが、宿屋になります」


 やってるようには見えない。どう見ても営業してねえだろ、これ。まあ、客いないとそうなるよなって思って、とりあえずふんふん頷いてたら、村長さんの家から人が転がり出てきた。勇者様の、親父殿だ。


「いやあお待たせしました。村長のコームと言います」

「急に押しかけて、申し訳ない」


 ジジイはポーチから、ギルドから渡された板を差し出す。あれだ。宿代はギルドが持つって奴。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る