The second kiss:初めてのキスは奪われる

 さて、私たちが一体どうして、このようなキスしまくりの百合カップルになってしまったかといれば、時間は2か月前まで遡る。私にとって、もっとも衝撃的な思い出でもある。



── 2か月前 ──


「光、光!」

「ん? どうしたの、萌香?」


 高校1年の春の朝。ようやくクラスに馴染め始めた頃、高校で出来た初めての友達の、萌香から話しかけられた。


「これ、これ!」


 そう言って、萌香は自身のスマホを私に見せるので、何だろうと思い、スマホの画面を覗いてみる。


「何これ、小説? ……えーと、"俺は2度幼馴染に初恋する"? ……恋愛小説?」


 そこにはWeb小説サイトに投稿されている1つの小説が表示されていた。


 そもそも、これが一体どうしたのだろうか。


「あれ、光知らないの? 今、この小説が学生の間でバズってるんだよ?」

「そうなの? そもそもなんで?」

「これって元々去年から投稿されてて、今年の1月くらいに完結したやつなんだけどね? ついこの間、リカって言う高校生インフルエンサーが、これを推してて、そこから広まったんだ!」

「ふ~ん、どんな話なの?」


 ここまで萌香が力説するくらいだ。きっと物凄く感動出来る話なのかもしれない。


「幼馴染の恋愛模様を描いた小説だよ! 設定自体はよくある奴なんだけど、心理描写が物凄く丁寧で、気が付くと、物語に引き込まれちゃうの!」

「へぇー、萌香がそこまで力説するなんて珍しいね」


 萌香はそれなりに本を読む人らしく、よくその手の学校の友人たちと感想会を開いている。だからここまで力説するのは、本当に凄いと思う。


「Web小説だからって舐めてたね。新しい世界が開拓されちゃったよ!」

「はいはい。それで、萌香は私にも読んで欲しいんだね?」

「そう! 是非読んで欲しいの! さっすが私の親友だねー」

「私は萌香と親友になった覚えはまだないよ。そう言うのはせめて、1年くらいは友達でいないとね」

「えぇ~」

「あははは!」


 萌香はほんとに明るい。一緒にいる私まで思わず笑っちゃうくらいだ。


 そうして、ホームルームが始まるまでの間、萌香と話していると、ガラガラと1人の女の子が入ってきた。


「あ、愛華さん、おはよー」

「えぇ、おはよう、萌香さん。…………光さんも、おはよう」

「うん! おはよう、愛華さん!」


 藤咲愛華ふじさきあいかさん。茶髪のセミロングで、背は160と平均的な高さであるにも関わらず、出る所は出てて、引っ込む所は引っ込んでいる。正に美少女と言って過言じゃない。


 正直、私が女の子じゃなかったら、惚れてしまうくらいには物凄く可愛い。


「いやぁ、愛華さんは何時見ても可愛いよねー」

「そだねー、しかもこれまでに受けた告白を全部断ってるんでしょ? 流石、美少女となれば選び放題だ」


 彼女は入学してから、愛華さんには連日愛の告白イベントが発生している。でも、その全てを断ってるんと言うんだから凄いよね。


「そのうち、やっかみがありそうだよね」

「確かに! 女子の嫉妬は怖いから……」


 そうして、萌香と会話を再開する。そして、ふと愛華さんの方に視線を向けた。何となく視線を感じたからだ。



(あれ? 何か、こっちを見てる?)



 愛華さんは、何故かジーと私だけを見つめていた。そして、私がその視線に気が付いた事を察したのか、サッと視線を逸らした。


「?」

「どしたの、光?」

「え? あぁ、うん。何でもないよ」

「そう?」


 まぁ、気の所為だろうと結論付け、その後も萌香と話し続けた。



***



「はぁ……、宮本め、嫌な仕事を押し付けやがって」

「そう言わないの。宮本先生にも用事があるんだから……」

「いいや、絶対にただの職務怠慢だって!」


 化学担当の宮本先生。この人は人使いが荒い事で有名だ。そして、めでたく今日の餌食は私と愛華さんになってしまい、放課後、化学室の掃除に駆り出されている。


(うーん、でもこうして愛華さんと一緒になれたのはラッキーかも)


 別に女の子が特別好きと言う訳じゃない。私だって女の子、男の人と付き合いたい気持ちはもちろん持ち合わせているが、それとこれとはまた別だ。


 何せ、美少女からしか得られない栄養と言うものが存在するんだからね。いやぁ、眼福眼福。



「そう言えば、萌香さんが例の小説について話してたよね?」

「うん? あぁ、あれね。そうだよー。愛華さん、もしかして読んでるの?」

「えぇ、少し人を選ぶ所はあるけど、とてもいい作品よ。この葉桜真夜はざくらしんや先生は、とてもよく人の心理を表してると思う」

「ふ~ん、私も読んでみようかなぁ」

「ふふっ、きっとハマるから、おすすめだよ」


 まさか、こんな所で愛華さんと会話が盛り上がるなんて思わなかった。これには話題を提供してくれた萌香に感謝だ。あと、このふざけた雑用を押し付けた宮本にも一応感謝をしよう。


 その後も黙々と2人で、化学室の掃除をしていると──。


「ひゃっ!」


 不意に愛華さんの手と重なってしまった。そして、愛華さんは、とても可愛らしい声で驚いた。何これ、めちゃくちゃ可愛すぎる。


「あ、ごめんね、愛華さん」

「え、あ、う、うん。私もいきなり驚いてごめんね」

「いやぁ、まさかあんなに可愛い声で驚くから、びっくりだよ」

「その、少し、指先とかが敏感でね」

「なるほどー」


 その言葉でちょっといたずら心が働き、ウネウネと指を動かし、愛華さんの手を握って、さわさわと、くすぐることにした。



「へ、光さん!? ちょ、や、やめ……、んん……、んっ」

「おぉー、本当に弱いんだね」


 そのまま愛華さんの両手を握って、さわさわと、くすぐりを続けていると、本当に弱かったのか、身をよじり、悶え始めた。


(あ、ちょっとこの絵面はヤバいかも……)


 同性とは言え、こんなあられもない姿を見てたら、変な気持ちが芽生えそうだ。


 そう思い、『ごめんごめん』と謝りながら、手を離そうとしたのだが、カクンと、愛華さんの膝が折れ始めた。


「へ、あ、ちょっと待って! 今、バランスを崩したら──」



 そう声をかけたけど、無意味だった。愛華さんの膝が折れ、バランスが崩れた事で、愛華さんを覆い被さる用に、倒れ込んでしまった。



「いつつ、愛華さん、大丈夫? ごめん、悪ふざけが──」


 愛華さんに謝ろうとしたのだけど、出来なかった。恥ずかしさからなのか、色気を感じさせるくらい、愛華さんの顔はピンク色に染まっていたからだ。


(うわぁ、めっちゃ可愛い……)


「はぁ……、はぁ……、酷いよ、光さん」

「あははは……、ごめんね」


 いけない気持ちを払拭し、立ち上がろうとしたのだけど、何故か立ち上がれない。よく見れば、愛華さんが私の制服を掴んでいた。


「あの、愛華さん。手、離してくれないと──」

「可愛い……」

「へ?」


 その言葉に反応し、愛華さんの方に顔を向ける。すると、さっきまでの恥ずかしがる様な表情から一変し、何か熱い視線を送る様な表情になっていた。


「あの、愛華さん?」

「光さんが、いけないんだからね」

「な、何が?」

「こんな事されたら、もう、出来ないよ」

「我慢? 一体、何に──」




 その瞬間、頭の中が真っ白になった。だって、だって、だって……、突如、愛華さんの両手が私の頬を包み込んで、同時に──。



「んん……、ん、んん!?」

「…………ぷはぁ」



 時間にすればほんの数秒の出来事。そうして愛華さんは、からを離す。



「………………え、……あ、愛華、さん?」


 あまりの出来事に、パチパチとまばたきする事しか出来ないでいる。すると愛華さんは、いたずらが成功したかのような表情で、話しかける。


「ふふっ、とうとうしちゃった。……どう? 私のの味は……」



 その言葉に、更に唖然とする。言葉にされる事で、さっきの行為が夢ではない事を実感させられる。顔が熱くなる。


 そもそも、ファーストキスと言うなら、私だってそうだ。


「あ、あわわわわわわわ」

「ふふっ、そうやって驚いた顔も可愛い」

「な、な、何してるの!?」


 ようやく頭が働いたので、バッと愛華さんから離れ、そう強く叫ぶ。


「何って、キスよ?」

「違くって! いや、そうだけど、そうじゃなくて……」


 やっぱりまだ混乱している。だけど、そんな私を他所に、愛華さんは更に爆弾を投下した。


「好き」

「…………へ?」


「私ね、光さんの事が好き。友達としてじゃないよ。恋愛感情として、光さんの事が好き。恋しちゃった」



「………………は、はいぃぃぃ!?」



 まさに恋する乙女の様な表情で告げられたその言葉に、今年1番の声量で叫んだんじゃないかと思うくらい、その衝撃的な発言に驚愕した。




 これが、私たちの最初のキス。これから先、何度もする恋のキスだった。

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