第354話
「……まずは目標をはっきりさせておくか」
コーヒーを飲みながら、俺は開いたノートの1ページ目に大きく見出しを書いた。
『乳製品探求記録』。
その下に、箇条書きで項目を並べていく。
『バター』
『ヨーグルト』
『フレッシュチーズ』
『熟成チーズ』
「まずはこの順番だな」
簡単なものから取りかかり、少しずつ難度を上げていく。いきなり熟成チーズに挑んでも、基礎が固まっていなければ失敗するだけだ。
一服しながら、次に進めるべき準備を考える。万能生成スキルがあるとはいえ、何でもそれに頼るのは面白くない。
この試みの本質は、手間そのものを楽しむことにある。だからこそ、どこでスキルを使い、どこはあえて手作業にするのかをしっかり線引きする必要がある。
「材料と工程……分けて書いておくか」
ノートを開き直し、ページの左右に線を引いた。左に『スキル使用』、右に『手作業』と記す。
スキル使用:
・レンネット(凝固剤)
・ヨーグルト菌種
・衛生的な銅鍋
手作業:
・バターチャーンの作成
・チーズプレスの作成
・熟成庫の準備と管理
・攪拌、温度管理、発酵、熟成作業
「これでいい。あくまで基本は自分の手でやる」
ノートを閉じ、次は材料調達だ。何よりもまずは牛乳がなければ話にならない。
だが、いちいち酪農家を訪ねて会話するのは気が進まない。俺は顔を出さずに済む方法を考えた。
やることは単純だ。店の軒先に木札を出し、革袋を括りつけておくだけ。
そこに必要な内容を記しておけば、気の利いた村人が届けてくれるだろう。
木札にこう書いた。
『牛乳求む。代金は袋に。定期便歓迎』
「これでいい」
余計なやり取りは不要だ。相手にも変な気を使わせない。
木札と革袋を軒先に設置し終え、カウンターに戻って煙草に火をつけた。
立ち上る煙をぼんやりと眺めながら、まだ見ぬ乳製品の世界を思い描く。
手間を惜しまない作業は嫌いじゃない。
ましてそれが、自分の欲しい味を追求するためのものなら、むしろ歓迎だ。
「さて、どこまでやれるか」
自然と口元に笑みが浮かんでいた。準備は整った。次は道具作りに取りかかるだけだ。
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