異世界転生ファンタジーと聞いて想像する“冒険”や“チート”とは、まったく違うベクトルの物語でした。
主人公・歩は、前世であらゆるものを失った戦略家。地位も人脈も信頼も。そんな彼が異世界で出会ったのは、剣や魔法ではなく、“共に在る仕組み”でした。
この作品の最大の魅力は、迷宮という存在に「都市」という形で人々の意思を重ねていく、壮大で緻密な構築にあります。
そしてその中で歩が一歩ずつ、「誰かに選ばれるのではなく、自分の意志で選ぶ」強さを取り戻していく過程が、本当に丁寧で心を打たれます。
登場人物たちも皆魅力的。特にミナの真っ直ぐな優しさと、セレスの誇り高き変化には何度も胸を打たれました。
そしてアリシアのとある場面……あれはもう、涙腺決壊です。
ラストは、力でも支配でもなく、“対話”と“共鳴”によって運命を変えていく。まさに現代的で、思想的で、それでいてとてもエモーショナルな終わり方でした。
一言で言うと、「強さの定義を更新する物語」だと思います。
派手なバトルや俺TUEEEではなく、信じることで世界を変える、静かな感動がここにはあります。
転生ファンタジーは読み飽きたという方にこそ、ぜひ最後まで読んでほしい一作。
完結してくれて、本当にありがとう。