その日の夜。

 自宅に帰ったボクはいつものように自室の勉強机に向かった。イヤホンを装着し、スマートフォンから最近お気に入りの曲を再生する。合成音声の無機質な歌声が外の喧騒を掻き消して、束の間の平穏がボクを包んだ。

 常に電源がつけっぱなしのノートパソコンを開いて、なんとなくを立ち上げる。別に先生の言葉を真に受けたわけではない。

 ノートに書くと先生は言っていたが、実際に誰かと交換するわけでもあるまいし、文章さえ作成できればいいのだからワードでも大差無いだろう。正直、ノートは書くのも消すのも面倒だから、ボクにはこちらの方が楽だ。カタカタとキーボードを打ち鳴らす。


『先生に勧められたので日記を書くことにした。』


 最初だしこんなものだろう。別段書きたいことがあるわけでもない。そもそもボクは日記を書くのが苦手なんだ。

 誰も見ることはないだろうが、念の為パスワードを付けてデータを保存する。一旦閉じるも、これは一応交換日記なのだから、相手に向けたメッセージも書くべきだろうかと、消したばかりのそれをもう一度立ち上げた。


『先生に勧められたので日記を書くことにした。

 これからよろしく。』


 今度こそ日記を閉じて、ボクはいつものように寝落ちするまでネットサーフィンを続けた。

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