難事件捜査株式会社

中村雨歩

第1話 出会い

 婚活のパーティー会場。ざっと、百人くらいだろうか。立食パーティー形式。私は『雨里彩芽』のネームプレートを胸に付け、会場を歩き回っているが、なかなか、声をかけられない。今日は、捜査ではない。兄様に紹介され、婚活パーティーに参加している。


「しかし、嘘つきばかりじゃないか・・・?」思わず、ため息と同時に愚痴が溢れる。


「何?あの子?リクルートスーツで就活?」


「よく見なよ。就活って歳でもないと思うよ。目付き怖過ぎでしょ」


「こわ、睨んでるよ。行こ」


 港区女子?麻布女子?ムカつく女を睨み付けると同時に反省・・・。兄様から言われた「綾、このままでは嫁の貰い手がいない」

言い返せない。でも、反論させてもらうと、私は美人とは言わないが、可愛いし、スタイルも悪くない、と思う。学生時代は男女問わず告白もよくされたし、何人もの男子と付き合ってもいた。しかし、しばらく、いや、間も無く、別れを希望されるのだが・・・。


「う〜ん、何故ですかね〜?」

『古畑任三郎』ばりに悩んでいたら。一人の男が気になった。ポケットに手を入れた青いスーツの男に近づき、声をかけた。


「すいません、ちょっといいですか?」


「あ、はい」


「あちらの方が気になりますか?スーツのポケット何か入っていますか?」


「いや、あの人に声かけたいなと思って、ポケット?手持ち無沙汰でつい入れてしまって、何か?」


「あ、すみません。そうですね。そのような場所ですからね。失礼しました」

 失敗した。やはり、このような場所は慣れない。


「やっちゃたな。今日は、私は、婚活パーティー中のOL、参加者なんだよ」


「お話しよろしいでしょうか?雨里、彩芽さん?」

ふいに声をかけられ。呆気に取られた。男はシャンパングラスを差し出して来た。


「あ、はい、もちろんです」


「よい方は見つかりましたか?」


「いえ、なかなか難しいですね」


「同じです。このような場所慣れなくて。雨里、彩芽さんはお仕事は何を?」

男はネームプレートを覗き込みながら言った。


「あ、OLです。事務やってます」と

言うと同時にパーティー司会の声が鳴り響いた。


「はい。お時間になりました。ではでは、

あとは皆さんにお任せ致しま〜す」


「あ、残念。また、会ってもらえますか?」

男が私を笑顔で見つめながら言い、若干の戸惑いを覚えながら、連絡先を交換した。


男が立ち去ろうとした背中に声をかけた。

「あ、あの、あなたのご職業は?」

「パイロットです」

パイロット・・・?顎に手を当てながら、男の言葉を反芻した。


 後日、男から連絡が来た。指定されたホテルラウンジで会う事になった。アイスコーヒーを飲んで待っていると男がキャリーバックを引きながら、パイロットの制服、制帽姿で現れた。


「すみません。フライトが遅れてしまって、お待たせしました」

男は制服の帽子を取って席に座りながら、ラウンジスタッフにコーヒーを注文した。改めて男を見て感じるものがあった。


「ロマンス詐欺だな?」


「え?」男の目が泳いだ。隙が見えた。畳みかけた。


「空港から離れたホテルに制服で帽子まで被ってやって来るパイロットはいない」


 男は席を立って逃げようとした。

「逃げるな。もう囲まれてる」

男は諦めたように肩を落とした。


「何件やったんだ?」


「実は・・・一件も成功していません」


「随分、素直だな。嘘はつくなよ」


「はい。実は私役者をやっていまして」


「は?演技の練習とでも言うのか?」


「いえ、お金が無くて、詐欺をしようと思ったのですが、騙しきれなくて・・・」


「何で?」


「なんか、悪いなと思っちゃって」


「え?馬鹿なの?あんた詐欺師でしょ?」


「そうなんですが、色々相手の話しを聞いていると、みんな何かしらの悩みがあっ  て大変なんだなと思うと、これ以上悩みを増やしたら申し訳ないと思ってしまって・・・」


目の前の自称役者の詐欺師は呆れた事を言う。

いや、自称詐欺師の役者か・・・?

情けない自称詐欺師を目の前にして、ふと、

アイデアが思い浮かんだ。


「あんたさ、話し聞くのも上手いよ。いい所だと思う。顔も悪くない。性格も悪くない。私と組まない?どう?」


「え?どうって、どういう事ですか?」


「私、実は刑事を辞めたばっかりなんだよね。OLは嘘。だから、おあいこで見逃してあげる代わりに、一緒にさ、探偵事務所やらない?」

目の前の男は呆気に取られたように目をまん丸くして私を見つめた。


「それとも、ぶち込まれたい?」

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