1000円の能力

@Omoide_in_my

第1話 1000円の能力

「今日も授業終わりっと。これからバイトめんどくせーな。」


俺の名前は昇龍 拳(しょうりゅう けん)。東京に住む、普通〜の大学1年生だ。


「さて、時間無いしそろそろ……」


「お〜い、拳殿〜!聞いて欲しいでごさる!今日のヤミーオークションで世界に1つしか無い、オレオちゃんのフィギュアが買えたでござる!」


「世界に1つ!?いくらだったんだ?」


「700万円。」


「……」


こいつの名前は鬼桐 空(おにぎり くう)。同じ大学に通う幼馴染だ。ザ・アキバオタクな感じの見た目で小太り。とにかく親が金持ちで、大学の合格も金の力でもぎ取りやがった。


「そんな金使って大丈夫なのかよ。」


「問題無しでござる。オレオちゃんの為ならいくらでも金を出せるでござる。あ、拳殿この後暇でござるか?ゲーセンに行きたいのだが。」


「あーすまん。この後すぐバイトなんだよなぁ。」


「そうでござるかぁ。それは頑張ってほしいでござるな!」


「ありがとう。」


「それではまた明日会おうでござる!」

タッタッタッタ…


「さて、バイト急ぐか。」



【バイト中】


「……こちら全部で7点で合計3510円になります。ポイントカードはお持ちで……」


「おいお前、115番」


急にジジイが割り込んで来てそう言った。

俺は思わず、


「はい??」


「だーかーら、115番よこせ。」


「今こちらのお客様の対応中ですので、少々お待ちを……」


「うるせぇ早くしろ。お客様は神様なんだぞ。」


さすがに、キレたよね。


「確かに、礼儀正しく、ルールも守れるお客様は神様ですね。でもお前みたいな礼儀も無ければ、「順番」というルールも守れないゴミは神様じゃない。ゴミ様なんだよ。小学生ですらドッチボールのルールを守れるのに?幼稚園児ですら鬼ごっこのルールを守れるのに?お前は何歳児なんだ?未成年に煙草なんか売れるわけねぇだろ!!」




「……………………………責任者を呼べ。」



【帰り道】

俺は暗い帰路についた。コオロギの鳴き声がコロコロコロコロ。夏の夜って感じ。


(…………はぁ………………日頃のバイトのストレス全部ぶちまけたら……………クビになっちゃったな…………でも俺は事実を言ったまでだ。全国のコンビニで働く店員の方々の代弁をしたんだ。何も言い返す事のできないあの表情と言ったらね……………はぁ…………今、金全然無いのにどうしよ。)


「…………え?」


確かに、この道の先には誰も居なかったんだ。それは俺の目が覚えているんだ。だからこそ意味が分からない。到底有り得ないと思うんだけども、15m程先の道端に急に現れたんだ。おじいさんが。


(あのおじいさん、急に現れたような気が………しかもかなり不気味でみすぼらしい姿だ。早く通り過ぎよっと……)スタスタスタスタスタスタ


「……………ノウリョク」


「うわびっくりしたまじで。ど、どうされました?」


「1000円、100万円、10億円、1兆円。そなたが支払った金額に応じて、能力をさずけよう。」


「は、はい?」


「1000円、100万円、10億円、1兆円。そなたが支払った金額に応じて、能力をさずけよう。」


(金額?能力?何か危ない宗教の勧誘とかか?……なんか怖いし逃げるか………)


「すいません、僕急いでるので………」


「私はその人の前には、人生で1度しか姿を現さない。ここで立ち去れば、そなたは能力を得る機会を永遠に失うこととなる。」


(しつこい感じか……)

「じゃああなたがさっきから言っている『能力』ってなんなんですか。」


「1000円、100万円、10億円、1兆円。支払った金額に応じて、能力の素晴らしさが異なる。1000円。1000円はくだらない能力だ。例えば、『念じただけでエアコンのタイマーが設定できる能力』『パスタの茹で時間が1分短縮できる能力』『USBメモリを挿すとき、裏表を間違えずに百発百中になる能力』など、まぁ1000円であれば買うだろうといったような変な能力ばかりだ。そして100万円、10億円、1兆円と金額が上がるほど、素晴らしい能力になる。

では、そなたはどの金額を望む。」


(なんで俺が買う前提になってんだよ……ただちょっと気になってきたな。)


「えっと、買うはどうかは一旦置いといて、今までその能力とやらはどれだけの人が買ってるんですか。」


「今の所の話だが、1000円の能力を買った者は数え切れん。恐らく1000人は超えているだろう。ただ、100万円の能力を買った者は15人、10億円の能力を買った者は3人、そして最高峰の1兆円の能力を買った者は未だ存在しない。さあ、時間がない。早くしなさい。」


(10億なんて買えるやついるのかよ………人生で1度しか会えないって言ってるし、こんなアニメみたいなこと起こるはずが無いと思うけども、何かの期待にかけて1000円の能力だけでも、買ってみようかな。あ、もしかしたら爺さんホームレスなのか?金困ってるなら手助けのつもりで1000円渡してやってもいいか……………あーでも今有り金ギリだしバイトもクビになったから…………)


「早く決めなさい。」


「…………1000円の能力、買います。」


中学3年の時、親に誕プレで買ってもらったLANVINの財布。それを右ポケから取り出し、数少ない1000円札を取り出し、爺さんに渡した。


「しかと、受け取ったぞ……」


「………そ、それで、どうすればいいんですか」


「目を瞑れ。」


「は、はい……」



ぐわんぐわんぐわんぐわんぐわん………

脳が揺れる感覚に襲われた……………






……コロコロコロコロコロコロコロコロ

コオロギが鳴いてる。どれくらい経った……?


(なんか頭がぐらついて変な感じだったけど、これは一体…………)


「そなたの能力は、

『スイッチの押し間違いが無くなる能力』だ。

さらばだ………」


「え、ちょっ待って…………」


サーー……


老人は闇に消えた。


「………………自分で能力選べないのかよ……

早く言えよ………なんか感覚もそれっぽかったんだけど、『スイッチの押し間違いが無くなる』ってどういうことやねん。」


もしかしてあれか、

テレビのリモコンで音量を上げようと思ったら、間違って隣のチャンネル移動ボタン押しちゃう

とか、

トイレの電気つけようと思ったら、間違ってその下の換気扇のスイッチ押しちゃう

みたいな、そういうスイッチの押し間違いが無くなるってやつか!確かにああいうのちょっとウザイんだよなぁ!!………………………はぁ。


(仮にさっきまでの話が本当だとしても、この能力はしょぼさが拭い切れないな。これが、1000円の能力か……10億円の能力とかどうなるんだろうな。……まあいいや、帰るとするか……)



【1ヶ月後】ある朝……


(あれから1ヶ月くらいたったけど、なんかほんとにスイッチの押し間違いが減ったというか、ってかそういうの無くなったな。今までは3日に1回は絶対あったんだけどなそうゆーの………

あの話がやっぱり本当なのだとしたら、100万円とか10億円をあいつに支払ったやつが、いるってことになるよな。にわかには信じられん………考えすぎなんだろうか………)



〈続いてのニュースです〉


(お、このニュース…)


〈昨夜、またもや公衆トイレが爆発し、男性が1人死亡しました。東京都公衆トイレ爆破事件、今月で6度目です。たまたま近くを通りかかった通行人が言うには、『爆発する寸前、白い服を着た怪しい人が逃げていった』との事です。警視庁からは、『爆発の痕跡から、毎回、個室に入った人を狙っている。そしてその事件が起こる時間に限って、周辺の監視カメラが原因不明の作動停止を起こすので、犯人の足取りが読めない』などと説明しており、緊急の時以外は決して公衆トイレに近付かないよう呼びかけています。………続いての……〉


最近話題になってるやつ。東京都公衆トイレ爆破事件。ネットの情報によれば、犯人は白いワイシャツを来てるらしい。その特徴からfwitterとかだと、『白シャツボマー』なんて騒がれてるらしい。………………っと、そろそろ学校だし、出るとするか…………



スタ、スタ、スタ、スタ、

「ふんふんふんふーん、ふふーんふふふふふん♪」


俺はただスマホをいじりながら、鼻歌を奏でながら歩いてただけなのに!


ドサッ!


「あ、す、すいません……」


「おいてめぇ、なにオレにぶつかってんだ?」


ヤクザみてーなやつにぶつかってしまうなんて……


「そ、それはその……」


「ボコされたくなかったら、今持ってる有り金、全部よこせ。」


「お金は今ちょっと…………無くて……」


「なるほど、じゃあ、仲間も呼んで、今からお前をボコすことに決めたよ。動くなよ。」


(ひ、ひぃい!に、逃げなきゃ、殺される!)


「………あ、あそこに警察!!」


「……な、なに……?」


今だ!しゅたたたたたたたたたたたたたた


「……あれ、あの野郎!!待てやゴラァ!!」

しゅたたたたたたたたたたた…………




【?時間後】

ハァハァ……逃げすぎて夕方になったけど……


「おい!どこだ!!絶対許さねぇからなー!……」


(しぶとすぎる……一旦あそこに隠れとくか……)

タッタッタッタ


ガチャ


(……ふぅ……とりあえずバレずに隠れられたな……)



「おーーーい!どこだあの野郎ーーーー………」



(へっ、まだ探してやがるよあいつ。あーあいつから逃げてたせいで大学の講義も飛んじゃったわ。まぁ今日はしょうがねぇな。しばらくここで隠れとくと…………………………)





あれ?





ここって





公衆トイレの個室じゃね???




そう気付いたと同時に、聞こえて来た。外から、こちらに歩み寄ってくる足音。



スタ、スタ、スタ、スタ、スタ、スタ



ガッチャン



足音が個室のドアの目の前で止まったと思いきや、大きな音と共に、それが目の前に現れた。それは明らかにこの世の法則を無視し、いきなり、瞬間的に、ドアの内側に設置された状態で、出現した。謎の物体。



「え?」



〈ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ〉

その物体からこの音が聞こえた刹那、拳は死を悟った……

拳は本物を見たことが無いし、日本人のほとんどの人もそうだろう。だが、「東京都」「公衆トイレ」「個室」「音」、直面している状況から、目の前にあるものが、恐らく時限爆弾だろうと推測するのは、拳でなくとも、本当に簡単なことだと思う。



ただ、その、時限爆弾の画面に何やら文字が書かれている。拳は読むしかない。



〈制限時間は3分〉

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