静寂の力で都市を切り裂く黒髪の女。
- ★★★ Excellent!!!
<序章〜第1部第1話を読んでのレビューです>
まず印象的なのは、作品全体の展開がまるで都市そのものを透視するような視点で描かれている点です。CIA文書風の序章から始まり、誰も気づかないはずの異常を細密に描写していくスタイルは、単なるスパイものやサスペンスではなく、静けさや秩序、そして異物の存在を肌で感じさせる独特の読書体験を提供してくれます。音が消え、視覚の歪みが現れる場面では、情報の洪水に囲まれた現代における「異物感」と「静寂」が鮮烈に際立っています。
特に印象に残った文章は、第1話の「音が途切れたのではない。音そ・の・も・の・が存在していなかった。」です。この一文は、ただの不在ではなく、世界そのものから消え去ったかのような静寂の恐怖と神秘を、読者に瞬時に体感させます。短く、しかし余白を感じさせる句読点の使い方も秀逸で、心理的な緊張を文章だけで巧みに構築しています。
読み進めるうちに、読者は主人公の黒髪の女が持つ存在感と、都市の秩序との対比に引き込まれます。日常の警備、AI、ヘリの描写などの現実的要素を精緻に描きつつ、超常的とも言える「静せい寂じゃく」の現象を差し挟むことで、物語は硬質でありながら幻想的なリズムを持つのです。
単なるアクションやサスペンスの筋書きに目を奪われず、都市の音、情報、秩序と、そこに潜む異質な存在との距離感を楽しみながら読むことをおすすめします。ページをめくるたびに、音のない世界と日常の微細な揺らぎに目を凝らす快感を味わえるでしょう。