第三部

第21話:その先、冥府につき

 命ある限り、死はとなりにいる。


【管理責任者】OI‐7

【アクセス】非公開

【戦闘ログ】PR203.324.YSf.32K

【ユニット】緊急即応部隊“ワイルドハント”

【音声ログ】再生


(タイラント1)こちらタイラント1。ストライクチームの降下が完了。


(アンドロメダ)タイラント各機、そのまま対地火力支援を実行せよ。


(タイラント1)了解。タイラントは近接航空支援に移る。


(アンドロメダ)ストライクチーム、こちらアンドロメダ。あらゆる実力行使を認める。敵は一人だが油断はするな。ブラックオリオンへ単独潜入しただけでなく、ドローンを含めた警備部隊、全てを無力化している。可能ならば生け捕り、不可能ならば確実に排除せよ。オーバー。


(STリーダー)ハンター6は了解。すでに敵は我々の位置をあくしているものと思われる。全隊散開し、狙撃にけいかいせよ。魔女狩りを始めるぞ。


(アンドロメダ)全隊、多次元スペクトル解析の結果が出た。対象の予測位置を表示する。交戦に備えよ。


(タイラント3)……くそ、ローターをやられた! 高度を維持できない!


(タイラント2)タイラント3のついらくを確認。生体反応なし。敵の狙撃と思われる。全機、回避行動。


(タイラント1)アンドロメダ、こちらタイラント1。先の発砲でターゲットの熱源を捕捉できた。ドアガン、レディ……なんだ? 機体が……


(タイラント2)タイラント1、どう修正しろ! ぶつかるぞ!


(タイラント1)無理だ! 制御できない!


(STリーダー)報告。タイラント1と2の両機が接触、ついらくした。他に航空支援は?


(アンドロメダ)そちらにドローン・キャリア、タロン2を向かわせている。到着まで180秒。


(STリーダー)敵予想範囲に接近。包囲陣形を形成中。


(ST隊員)静かだ。


(STリーダー)2‐3、左に回れ。


(ST隊員)2‐3は了解……エリクソンとランバートが見当たらない。あたりをけいかいしろ。


(ST隊員)2‐2、4‐1は右を抜ける。誤射に注意。


(ST隊員)コンタクト!


(ST隊員)いったいどこに隠れていた! 撃て!


(ST隊員)味方を盾にしている。二時の方向。


(ST隊員)おい、どこだ、どこから撃ってきた!


(STリーダー)2‐3、撃つな! 4‐1だ。撃ち方やめ! 撃ち方やめ!


(ST隊員)撃ち方やめ! 


(STリーダー)アンドロメダ、こちらハンター6。敵の位置情報がさくそう。敵はこちらの動きに対し、心理的な罠を仕掛けている模様。ドローンによる、ほうかつてきなエリア制圧をようせい。オーバー。


(アンドロメダ)ストライクチーム、タロン2が戦域に入った。ドローン・スウォームを展開する。ローレライ、アクティブ。


(ST隊員)何か動いた。十一時だ。


(ST隊員)いや、何もない。人がいた様子はない。


(ST隊員)こっちもだ。異常なし。


(STリーダー)こちらハンター6。アンドロメダ、敵が見つからない。状況打開のため、再度、敵位置の解析を求める。オーバー。


(アンドロメダ)ハンター6、ローレライによる環境測定と合わせ、多次元スペクトル解析を再度実施した。やはり近くにいるぞ。


(STリーダー)しかし、ローレライは反応していない。スキャニングにも反応なし。対象はすでにここからてっしゅうした可能性がある。オーバー。


(アンドロメダ)ハンター6、上空のUAV、および衛星からの映像データより、対象が監視外へ逃走したとは考えにくい。対象エリアをてっていてきに捜索せよ。戦域外では臨時検問をもうけている。


(STリーダー)了解。このまま現地での捜索を続ける。


【音声ログ】終了



 肌を温める、心地よい日差し。

 んだ空気がそよ風とともにやってくる。

 レマン湖の南西岸、ジュネーブ。

 そこにそびえたつのは地上二十八階建て、地下二階の建物。


 通称「ロゴス・タワー」。

 シンプルながらも、無駄のない、洗練された美しさを放つ、この建造物は世界企業連盟(Global Corporate Consortium)の本部である。

 一般的な企業ビルには見られない、広大な庭園、噴水場、美術館、図書館といった施設も中に含まれている。


 通常、タワーの職員・来客は守衛と3D動体スキャニングによるセキュリティチェックを受けた後、個人アクセス権を登録した個人用電子タグを自動受付機から渡される。


 飾り気のない、かんな造りの一階。

 入り口の総合受付は無人自動化。

 ひとはなく、BGMのクラシックが館内を満たしている。今流れているのはベートーヴェンのピアノソナタ第14番 月光。

 エントランスホールの床には世界企業連盟のロゴが描かれ、少し進むと、地球儀のホログラムが投影されていた。


 この重要施設の警備にあたるのはパラディン・セキュリティ、ヴォルト隊。

 警備員は灰基調の装備で固められ、耐衝撃・耐環境に優れたナノ衝撃かんしょう多層ゲルアーマーを装着。銃には対ボディアーマーを想定した、サプレッサー内蔵PDWのCPXが採用されている。


 地下二階、サーバルーム。

 この場所で常に、自己診断と自己最適化を続けているのは管理AI〈アリア〉。

 アリアはこの建物のためだけに設計された、専属AIだ。

 電子タグ着用者の位置情報をあくし、監視カメラや警備員の視線カメラと合わせ、建物内のちつじょを守る。

 それが与えられたアリアの存在意義であり、仕事であった。


 専用通路と専用エレベーターで到達できる、ロゴス・タワーの最上階。

 長いろうの先にあるのは、世界企業連盟「そうすい」のしつしつ

 ひとりの女性が少々あわてた様子で、開かれたしつしつの中へ入った。


 白いビジネススーツを着こなす、彼女の名はエレナ・マーグレイヴ。

 元イギリス陸軍情報部戦略分析官にして、現パラディン・セキュリティCEO。

 NATO合同戦略部門ではAI戦術運用プロジェクトに関与、その後、世界企業連盟の戦略部門にしょうへいされ、パラディン・セキュリティ創設にさんかくした。


「この度の失態、申し訳ございません、セルヴィスそうすい


 開口一番、謝罪の言葉。

 国連や各国政府とのこうしょうでも、彼女がこのような姿を見せることはめったにない。

 だが、相手は彼女にとって、こうべを垂れるべきゆいいつの存在。

 目の前に座る男性こそ、世界企業連盟のトップ、ノア・セルヴィスであった。


「パミール高原にある“国際気象観測センター”で事故があったと聞いています。ティルトローター機が三機もついらくしたと。なぜ、そのようなことが?」


 わずか三十六歳という若さで、そうすいの地位についたノア・セルヴィス。

 連盟創設時、元々のそうすいはヴェルニル社のCEOが兼任していたのだが、後継者として連盟理事会により、彼が指名されたのであった。

 非常に知識に富み、物腰も柔らかく、人心しょうあくじゅつにもけた彼は、感情に流されない現実主義者。その圧倒的な組織運営力は、今の世界企業連盟を見ればわかる。


「侵入者対応のために、緊急即応部隊を派遣しました。ついらくした三機とも同部隊を輸送した機です。すでに事故現場は封鎖され、事故調査が行われています」


 ノアは一切の表情を変えず、淡々とエレナの報告を聞いていた。


「いまひとつに落ちないのですが、気象観測センターが狙われた理由はなんでしょう? そもそも標高は四千メートルです。常識的に考えて、侵入者にとってはリスクしかありません」


 彼の指摘はごもっともだ。

 ただでさえ、標高四千メートルという低温・低酸素環境は非常に厳しい。

 命の危険をおかしてまで、国際気象観測センターに侵入するメリットが見当たらない。


「詳細はまだ分かっていません。サーバルームへの侵入があったことは確認されています。今のところ、爆薬や盗聴器といったものは発見されていません。現在、被害状況を調査中です」

「実に不可解な事件です。犯人の目的が何なのか……事件の詳細が分かりだい、連絡をください。パラディン・セキュリティにはこれまで以上に気を付けて、業務のすいこうをお願いします」

「必ずや、ご期待にこたえてみせます」


 エレナの瞳に、じゃっかんの動揺と秘め事を感じ取っていたノアだが、あえてそこはついきゅうせず、彼女の動向を見守ることにした。

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