第12話 幹事長の秘めた愛情

 2人が東京ドームの警護に着いたのは、今し方である。


 このツアーは全国ドーム公演で、東京ドーム公演は3days行なわれ、その2日目に大物代議士の娘が訪れる。


 娘の席はvip席で、まだ公演が始まってないため、娘は来ていないが、流石は世界トップクラスのミュージシャン、続々と旬の有名人が、vip席に着席していた。


 vip席の近くで、警備員の格好をして警護していた2人だか、早乙女はvip席の有名人を近くで見て興奮していた。


 「あれ××だよ、あれ○○だよ、顔小さい」


うるさいなと思いつつ山村もこれだけ豪華なメンツを側で見てテンションが少し上がっている、それにしても女優の中でも綺麗どころと言われる女優も何人も来ているのだが、早乙女のルックスが見劣りしない。


 「ねぇ、この際だから、顔いじっているのか聞こうか」早乙女はテンションが上がりながら言う。


 「絶対にそんな事やめてね、第一僕たち任務中だよ」山村は焦って言う、早乙女なら本当に聞きかねないからだ。


 「えー別に良いでしょ、関係ないし」


「関係なくても、上に知れたらこっぴどく叱られるよ、お願いだからやめて」山村は懇願するような目で言う。


 早乙女は不満気な表情で「分かったわよ、でもアンタ、ナヨナヨした言い方して男なのに恥ずかしくないの、男なら男らしくシャンとしなさい」


 「君ね、今は多様性の時代なんだ、男らしいからシャンとしなさいとか言わない方がいいよ」山村は弱々しく言う


早乙女は不思議そうな目で山村を見て「アンタそんな言葉、真に受けてるの、多様性って言葉、自分と意見の違う考え方を排除しようとする言葉よ」


 「そんな事は無いと思うよ」山村はちょっと言い淀んで言う


 「言い方から察するにアンタも少しは気づいているんじゃない、多様性って言葉を多く使ってる連中が自分の意見を押し付けたいだけの思想統制が好きな連中だって事」


 「それは言い過ぎじゃ」


「マスコミとかsnsとかで多様性とか声高に叫んでる連中にまともな奴いると思うの」


「…」山村は言葉を失った、実際早乙女の言う通り、この言葉をよく使ってる人にバランスの取れた人がパッと思い浮かない。


 「アンタもそう思ってるんでしょ、私は多様だろうがなんだろうがどうでもいいけど、その私の多様も認めてよ、大体、アンタが本当に多様な価値観を重んじる人なら、私に多様性という言葉を使ってマウントを取ろうとは思わないんじゃない」


 容赦ない早乙女の言葉に返す言葉もない山村は泣きそうだった、もう帰りたいと思った時、2人の携帯している無線に連絡があった。


 川本からの連絡だ、「娘が客席に入られた×番ゲートから出てくる」


 2人は娘の顔写真をスマホに入れている、×番ゲートはすぐ隣だ、山村は早乙女に言い負かされた事を引き摺りながらことを振り払うように気構えた、早乙女も同じだ。


 写真で見た通りの娘がゲートを通って客席に座った、お嬢様風の背丈は普通より少し高い制服を着た恐らく高校生の美少女だ。一人で来ているようだ。


 横を見ると早乙女がスマホをいじっていた、こいつは勤務中にと思ったが、すぐに早乙女はスマホの操作を止めた。


 すると早乙女は川本に向かって無線で言う「あの子、幹事長の隠し子でしょ」


唖然とする山村を見て早乙女は「あの子の写真貰った後、画像検索かけても何も引っかからないし、公表されている家族構成からと幹事長に娘はいるけど、30代よあの子明らかに高校性じゃない、ネットでいくら調べても幹事長に10代の娘はいないわ、今、念の為スマホで再確認したところ、アンタ私たちが守る人間のことぐらいネットで調べなさいよ」


 言われて、山村はぐうの音も出ない。


 川本は無線越しに少し黙った後「早乙女には、嘘はつけないな、あの娘は幹事長の元愛人の子供だ」


本当に合ってるのかよ、と山村は思った。


 「昔、幹事長が、まだ要職に就く前入れ上げていた、銀座のホステスがいてね、その女性と愛人関係になった後、妊娠が女性に発覚してね、本気で幹事長は離婚をしようとしてその女性と結婚しようとしたらしいのだが、女性の方が身を引いて、幹事長の元から去っていたらしいんだ、幹事長が興信所を使ってその女性の居場所を突き止めたところ横浜の高級クラブで働いていたそうなんだが、女性は頑として、縁も戻さない、養育費も受け取らなかったそうだ、しかし、娘が心配で、幹事長は娘の情報を調べて隠れて、娘の姿を時折、見に来ていたそうなんだ」


 「幹事長に愛情はあるって事ね」声を小さめにして言う。


「そうなんだ、私は幹事長と何か関係がある訳でも、支持者でもないが同じ子供を持つ身としては、気持ちはよくわかる、どんな状況であれ任務を遂行するのが、我々だが、何とかしてやりたいと言う気持ちが強いのも事実だ、だから関係のない娘さんを巻き込む事がないと言う意味でも君達には前の様な頑張りを期待する」


 「分かったわ、任せてください」早乙女は言う。


 山村はと言うと重めの情報で頭がまた処理ていない、特に動揺する様子もない早乙女を見て改めてどんなメンタルしてるんだと思った。


 「アンタ、また私をヤラシい目でジロジロ見て、気持ちわるいわね」


「違うよ、どうして君が、そんなに平気でいられるのか、不思議に思ったんだ」山村は慌てて言う。


 「私でも知らないわよ、大体アンタ何回か私と会って仕事してるんだから、そんな事でいちいち驚かない、シャツキとしなさい」


山村はさらに早乙女に気おされる、その時チート能力者探知機が鳴った、山村の頭は凄まじい緊張と共にこのバツの悪い状況から脱せられるホッとした気持ちが複雑に入り混じっていた。








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