転生したら相棒が生成AIだった件〜万能システム『ディヴァイン・スクライブ』で異世界知識チート無双〜

岡島 圭

第1話 限界の果て

「はぁ……はぁ……」


浅い呼吸を繰り返す。指先は氷のように冷え切っているのに、額にはじっとりと汗が滲んでいた。蛍光灯の青白い光が、深夜のオフィスを無機質に照らし出す。外はもう白み始めているというのに、俺――神代祐樹(かみしろゆうき)の戦いはまだ終わらない。


モニターに映し出されるのは、延々と続くコードの列と、それを無慈悲に打ち砕く赤いエラーメッセージ。もう何度目だろうか、このデバッグ作業。キーボードを叩く指は鉛のように重く、思考はとっくにショート寸前だ。


「働けど働けど、なお我が暮らし楽にならざり……か」


昔の偉い歌人、石川啄木だったか。「いくら働いても生活は楽にならない」と嘆いた歌があったが、今の俺はまさにそんな心境だ。ただ、あの歌人が生きた時代の苦労とは少し違うかもしれない。この状況は、社会がどうこうというより、単に俺自身の要領が悪くて、能力が足りないせい……つまり自業自得な部分も大きいんだろうな。


そんな自嘲気味な呟きは、誰に聞かれるでもなく静寂に吸い込まれていった。しがない末端プログラマーである俺は、要領がいい方ではない。納期前のデスマーチに巻き込まれ、連日の徹夜作業。それでも、任されたタスクを放り出すわけにはいかなかった。責任感、というよりは、ここで投げ出したら自分の存在価値がゼロになってしまうような、そんな強迫観念に近いものだったかもしれない。


同僚たちはとっくに帰宅し、フロアには俺一人。コンビニで買った栄養ドリンクの空き缶が、虚しくデスクの隅に転がっている。カフェインと糖分を無理やり流し込んでも、疲労は誤魔化しきれないレベルに達していた。瞼が重い。視界が霞む。


ふいに、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚があった。最初は気のせいかと思ったが、痛みは徐々に強まっていく。


「……っ、う……?」


なんだ、これ。心臓が妙に速く、そして不規則に脈打っている。冷や汗がどっと噴き出した。立ち上がろうとして、椅子を蹴る。だが、足に力が入らない。視界がぐにゃりと歪み、平衡感覚が失われていく。


「やば……い……」


声にならない声が漏れた。デスクに手をつこうとしたが、それよりも早く、俺の意識は急速に遠のいていった。まるで電源が落ちるみたいに、ぷつりと。世界が真っ白な光に包まれて――そこで俺の記憶は途切れた。


平凡で、過酷で、そして恐らくは、あまり価値のなかったであろう俺の人生は、こうして呆気なく幕を閉じたのだった。


……なんて、感傷に浸る間もなく。


次に意識が浮上した時、俺はまったく別の場所にいた。

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