第25話 「沈んだ匂い」

サクに案内され、村の外れへと向かうと、そこにはかすかに青白く光る地面があった。

草が焼けたように黒ずみ、湿った土の匂いに、どこか鉄錆のようなものが混じっている。


「……これは?」


ケイがしゃがみこみ、指で土をつまむ。

光は微細な粒子によるものらしく、風が吹くたびにわずかに舞い上がる。


「サク、よく見つけたね。ありがとう。ここから先は危ないかもしれない。屋敷で待っててくれる?」


「う、うん。じゃあ、戻ったらお話してね!」


サクが走り去ったあと、ケイは笛を取り出し、小さく合図を鳴らした。


──それから数分も経たず、アックが現れる。


「また何か見つけたのか?」


「……毒じゃないかと思う。自然発生じゃない。何かが、ここに撒かれた」


アックは眉をひそめ、慎重に周囲を見渡す。


「先週、近くの小川で魚が数匹、腹を上にして流れてた。報告には回してなかったが……それと、関係あるかもな」


ケイは静かに頷く。


「夢で見たのは、倒れた子どもと、濁った水。あのときは断片的で場所も曖昧だったけど……ここに繋がる気がする」


「……王都の再調査とやらも、これを知ってて動いてる可能性があるな」


アックは地面に膝をつき、短く息を吐く。


「だがこれは、騎士団の報告経路を通すと揉み消される可能性がある。カーヴァル家に近い役人が混じってる」


「……だから、あなたに先に話したんだ。俺は、まだ証拠を“見て”ない。けど、近い将来にこの土壌が拡がるなら……その時には遅い」


アックは立ち上がると、懐から小さな筒を取り出す。


「これに土を入れておく。信頼できる錬金術師に回す。王都じゃなく、別のルートでな」


「ありがとう、アック」


二人はしばし沈黙のまま、夜の風の中に立ち尽くした。


遠くで雷鳴がひとつ。

雲の奥で何かが蠢いている。


「これは、戦争でも災害でもない。もっと静かで、気づかれにくい“攻撃”だ。……人を選んで襲う類のものじゃない。全部巻き込む」


アックは小さくうなずいた。


「だから、お前の声が要るんだ。予知じゃなくても、お前の“疑い”が、動き出すための火種になる」


ケイは、表情を崩さず答えた。


「……俺は、未来を“変える”んじゃなく、起きた後に“備えたい”だけなんだ」


そしてふたりは、村の方角へとゆっくり歩き出した。


夜の空気が、どこか湿っていた。


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